「俺・・・・・松潤に会いに行く」
VTRを見終わり、スタジオが静まり返ったところで、俺はぼそりとそう言った。
「え・・・会いに行くって、どうやって?」
相葉ちゃんが俺を見る。
「病院を教えてもらうんだよ。マネージャーが教えてくれないなら、社長に直接聞く。だって―――松潤が、あんなに俺らに会いたがってたんだよ?俺らは・・・・黙って待ってるだけ?そんなの、俺我慢できないよ」
俺は握った拳に力を込めた。
潤は、俺たちに会いたいって言ってたんだ。
そのために、ずっと窓から外を見てた。
俺らがそこを通る確率なんてゼロに等しいのに・・・・・。
「そうだよな・・・・俺たちには、それができる。今までだって、やろうと思えばできたのに、何でやんなかったんだろうな」
翔くんが低く呟く。
冷静に言ってるようだけど、きっとすごく後悔してる。
俺と同じように力を込めた握りこぶしが、それを物語ってた。
「俺も行く。俺だって、Jに会いたい!なんだよ・・・・・俺たちには敵わないとか、何言ってんの、あの子は!」
ニノが、珍しくテレビであることを忘れたように感情を露わにした。
ひねくれているようで、潤のことをとてもかわいがっているニノ。
今回だって、どんなに心配していたか・・・・。
「ほんとだよ!とっくに追い越されちゃってるっつうの!俺らの方が潤に追いつこうって必死なのに!」
相葉ちゃんがそう言うのに、ニノがちらりと睨む。
「それは、おそらくあなただけでしょ。ずいぶん前に追い越されちゃってる感、有るから」
つか、最初から向こうの方が立場上?
なんて言われて、相葉ちゃんがニノの頭を叩いてる。
どっと受けるスタジオのお客さんとスタッフたち。
ようやく緊張が解けたかのように、スタジオがいつもの和やかな空気に包まれた。
「でもなんか、あんな風に俺たちのことを言ってくれてるのって嬉しいね」
翔くんが嬉しそうにそう言った。
「だね。松潤て、楽屋だとあんまり話さないし、テレビだと結構きついこと言ったりするしね。普段そんなことないのに、わざとああやってクールな振りするの」
相葉ちゃんが笑いながら言うと、ニノが苦笑して相葉ちゃんの頭をはたいた。
「お前、それ言っちゃダメじゃん、Jは場を盛り上げるためにわざとそうしてんのに、バラしちゃったらこれからやりにくくなるじゃん」
「あ、そっか」
「て言うか、お前もそれ言っちゃダメじゃん!」
翔くんも笑いながらニノに突っ込む。
お客さんが爆笑し、俺たちも「あ、やべ~~~~」なんて言いながら笑った。
潤の声を聞いて、顔を見て・・・・・
安心したのと同時に、会いたくて仕方なかった。
じっと窓の外を見つめていた潤の顔が、頭から離れなかった。
切なくて――――
胸が締め付けられた。
もしかしたら、この時にはもう、俺は気付いてたのかもしれない。
潤に対する自分の気持ちに・・・・
そして、ようやく4人揃って病院にお見舞いに行ける日がやってきた。
あの収録の後、俺たちは揃って社長の元へ行き、直談判をしたのだ。
結果、4人で一度だけ、ということで見舞いに行くことが許されたのだ。
お見舞いに行くことは潤にも知らせていたけれど、時間は知らせずに驚かそうと思っていたのに―――
「いらっしゃい。待ってたよ」
病室では、潤が落ち着いた様子で笑顔で待っていたのだった。
「なんだよぉ、驚いてくれないの?」
翔くんががっかりして言うと、潤がおかしそうにくすくすと笑った。
「驚かないよ。だって、窓から見てたし」
「・・・・・そっか、そっからいつも見てるんだっけ」
俺たちは、自然にその窓へ近づいた。
病院の外が見えた。
郊外のこの病院は自然の中にあり、点々と住宅は見えるものの、人の通りもまばらだった。
車の通りも激しいとは言えないその光景に、胸がまた苦しくなる。
―――ずっと、こんな光景を見ていたんだ・・・・・。
「松潤、今日は体調は?熱はあるの?何か食べた?」
翔くんの矢継ぎ早の質問に、潤が笑う。
「ふは、聞き過ぎ、翔くん。―――大丈夫だよ。今日はすごく気分がいいんだ。熱もないし、朝食もちゃんと食べられた。今ね、体重が48キロまで戻ったんだよ」
「マジで?すごいじゃん」
ニノが感心して言いながらも、さりげなく潤の腕を取り、ベッドに座らせる。
それにおとなしく従いながら、潤も嬉しそうに笑った。
「うん、だから、もうすぐ退院できるよ」
「やったね!仕事はいつからできるの?」
相葉ちゃんの言葉に、翔くんがその頭をはたく。
「お前、気が早すぎ。すぐに復帰は無理だろうが」
でも、潤は首を振った。
「ううん、大丈夫だよ。もう本当に元気なんだよ。あとは体重だけだから。俺、早く仕事したいんだ」
「J、でも・・・・・」
ニノが心配そうに潤の隣に座る。
その時、俺はおもむろに口を開いた。
「ねえ、松潤の絵、描いていい?」
その言葉に、4人がきょとんとして俺を見た。
別に、狙ったわけじゃないよ。
ここに来るまでにずっと考えてたんだ。
あれからずっと、俺は潤を描きたくて描きたくて仕方なかった。
どういうシチュエーションで描こうかなって考えてて・・・・・
やっぱり潤の笑顔が描きたかった。
俺たちの中で笑う潤が。
「好きにしてくれてていいよ。ここで勝手に描いてるからさ」
そう言って、俺は窓際に置かれていた椅子に座り、バッグからスケッチブックを取りだした。
「なんか、でかいバッグ持って来てると思ってたら・・・・・そんなもの持って来てたんだ」
ニノが呆れたように言ってから、何か思い出したように手を打った。
「あ!俺も持ってきたんだ、トランプ」
「トランプ?マジックでもしてくれんの?」
潤が首を傾げる。
「それでもいいけど、入院中暇だろうと思ってさ、簡単なマジック教えてやろうと思ったんだけど・・・・・もうすぐ退院なら必要ないかな」
その言葉に、潤が目を輝かせた。
「うそ!教えて教えて!できるようになったら、先生とかに見せたい!」
ポケットからトランプを取りだしたニノの手元を、嬉しそうに覗き込む潤。
その顔は本当に子供のようで・・・・・俺は鉛筆を取って、スケッチブックに向かった。
「え―、俺にも教えろよ―」
うらやましそうに2人の間に入ろうとする相葉ちゃん。
「お前はダメ!Jの邪魔すんなよ!」
とニノに追い払われる。
と、それを見ていた翔くんがくすくすと笑って相葉ちゃんの腕を引っ張る。
「ほら、俺らはジュースでもかってこようぜ。みんな、何がいい?」
それぞれの希望を聞いて、2人が病室を出ていく。
ニノが、丁寧に潤にマジックを教えている。
好奇心いっぱいのキラキラした瞳で、教わる潤が可愛くて。
それと同時に。
まるでベッドの上でいちゃつくカップルのように体を密着させている2人に、俺の胸がチクリと痛んだ。
男同士なんだし、この2人にとっては自然なことだ。
だけど―――
潤の手に触れながら、優しく潤を見つめるニノの様子に、俺の胸がざわざわと音をたてた。
こんなふうに感じたことは、今までなかった。
だけど―――
俺は、ニノに嫉妬している自分を認めざるを得なかった。
それ以上、2人の姿を直視することができず―――
俺は、潤の表情だけを目に焼き付けて、絵を描くことに集中したのだった・・・・・