最初の撮影シーンは、潤演じるバーテンダーの怜と智演じる優(まさる)が初めて会話するシーンだ。
「あんた―――ホモなのか?」
怜と、村上演じる卓美のキスシーンを見てしまった優が、怜に詰め寄る。
「さあ?」
怜は無表情に優を見て答える。
「さあって―――さっき、男とキスしてたじゃねえか!」
「―――向こうが勝手にしてきたんだ」
「―――ま、真里と付き合ってるんじゃないのか?」
「真里―――?」
怜の表情が微かに変わる。
「真里って、新しいバイトの?あんた、あの子の彼氏?」
「そ、そうだよ!」
「ふーん・・・・・」
怜は優を無遠慮にじろじろと眺めた。
「彼氏なのに、俺と彼女が付き合ってるか聞くってことは別れた?振られたんだ?」
「ち、違っ―――」
「『好きな人が出来たから別れて』って言われた?『彼も私のことが好きなの』とか?『もうキスしちゃった』って?」
次々と言い当てる怜に、優は愕然とする。
「―――当たってる?―――だろうね。大抵みんなそう言うんだ」
「みんな―――?」
「キスくらい、迫られれば誰とでもしてやるよ。でも、付き合うって言った覚えはない」
「!―――ふ、ふざけんな!真里は、本気であんたのこと―――!男が好きならそう言ってやれよ!」
「―――俺は、男が好きとも女が好きとも言ってないけど?」
怜の言葉に戸惑う優。
「―――あんた、ゲイじゃないのか?」
怜がふっと笑った。
「さあ?」
「さあって、また―――」
怜が、感情の見えない笑顔で、優に近付いて来る。
優は、まるで見えない何かに捕まえられたかのように動くことができなかった。
優の目の前に立った怜が、優を見下ろしながら言った。
「―――試してみる?」
何を、と聞こうとして―――
優は、怜にキスされていることに気付いた――――――。
「カーーーーット!!」
現場の空気が一気に和らいだ。
「今のキスシーン、凄く良かったよ!さすが、長いこと一緒にいるだけあるね!」
プロデューサーの言葉に、その横で撮影を見つめていたエイジも満足気に頷いていた。
潤と智は、チラリと視線を交わし、そっと微笑み合った。
その後、待ち時間に智の側に行った潤は―――
「―――わかった」
そう言ってにやりと笑った。
「何が?」
智が首を傾げる。
「スケジュール変更の真相」
一瞬、智の視線が泳いだ。
「エイジさんに言ったの智でしょ?」
「―――何のこと?」
「声、うわずってる。ヘタクソ」
「―――」
「自分のが先に、キスシーンしたかったんでしょ?村上よりも先に。―――自分の方が俺と一緒にいる時間が長いから、撮影もやりやすい。一番最初に撮るシーンだからスムーズに進んだ方がいいとか、言ったんでしょ」
潤の言葉にそっぽを向く智。
潤はおかしそうにクスクス笑った。
「可愛いよね、智は」
「え―――」
目を瞬かせる智の耳元に、潤が唇を寄せた。
「ヤキモチ、でしょ?」
途端に赤くなる智。
「松本さん、お願いしまーす!」
スタッフの声に、潤は軽く手を上げながら、歩いていったのだった・・・・・。