「―――なんで」


『潤が、いるだろ?』


「!!」


思わず息をのむ和也。


『開けろよ』


いつもより低い智の声に、それが本気だと分かる。


和也は、黙って扉を開けるスイッチを押した―――。


 

「―――なんで、わかった?」


智を迎え入れると、和也が聞いた。


智はまっすぐに寝室に向かいつつ、口を開いた。


「―――斗真から聞いた」


「斗真?会ったの?」


「いや。電話がきた。―――潤がニノと一緒に消えたけどいいのかって」

 

―――あのやろう・・・・・!

 

和也はがっくりと項垂れた。


これは間違えなく、潤との時間を邪魔されたことの和也への仕返しだと確信した。

 

そして智が寝室の扉を開けようとした時―――


ガチャリと音がして、扉が開いた。


眠そうに欠伸をしながら出てきたのはもちろん潤で。


「―――あれ、リーダーもきたの?」


そう言ってちょっと目を瞬かせると、ニコっと笑った。


「じゅ―――」


「俺、トイレいってくる」


智の言葉を遮り、潤はトイレに入ったが―――

 

突然、振り向いた智が和也の腕を掴んだ。


「―――どういうことだよ?」


「何が?」


「潤の格好―――シャツのボタンは全部外れてるし、あれ―――どう見ても、キスマークじゃねえか!」

 

「―――」


押し黙る和也に、智がますます苛立つ。


「おい!!」

 


「うるせえなあ。何騒いでんの」


いつの間にか、潤が頭を掻きながら2人を見ていた。


「―――潤。ニノに、何された?」


智の言葉に、キョトンとする潤。


「何って―――酔っぱらってた俺を、迎えに来てくれたんだよね?」


「ああ」


「俺が聞いてるのは、その後のことだよ。そのキスマーク・・・・・ニノだろ?」


その言葉に、潤はちらりと自分の体を見下ろした。


鎖骨や胸元、臍の回りにもハッキリと赤いキスマークがつけられていた。


「―――なんか、凄いね。模様みたい」


潤の言葉に、智の肩がガクリと落ちる。


「―――潤くんは、知らないよ。俺が潤の寝てる間にしたことなんだから」


「だろうね。俺、全然覚えてないもん」


「―――なんでそんなに平然としてられるの?ニノに、そういうことされてもいいってこと?」


智の言葉に、潤は肩をすくめた。


「だって、覚えてないし。でも・・・・・嫌だったら怒るよね、普通」


まるで他人事のような潤のその言い方に、智は眉をしかめた。


「―――嫌じゃないってこと?」


「そう、なのかな。自分でも良くわからない。ただ、ニノに対して嫌悪感もないし、こういうことにショックも受けてない。俺って、もしかしたらちょっとおかしいのかもしれないね」


そう言って、肩をすくめて笑う潤の笑顔はいつものように無邪気で。


智と和也はちらりと視線を交わした。

 

「―――あのさ、潤くん」


「ん?」


「たとえば―――俺じゃなくて、それをリーダーがやったんだとしても、同じってこと?」


「うん、そうだよ」


ニッコリと潤は笑って言った。


「それが翔くんでも、相葉くんでも同じ。だから言ったじゃん。俺って、おかしいのかもしれないって」


言いながら潤はリビングに入ると、ソファーに座った。

 

「4人が、大好きだよ。そこに差なんかない。でも―――俺のそういうのが嫌だったら、言って。そしたら、今度からちゃんと拒否するよ」

 

潤の目は、真剣だった・・・・・。



 

「バイセクシャルっていうんでしょ?こういうの」


そう言いながら潤は長い足を組んだ。


「自分でも、良くわかんないんだけど、俺、ちゃんと女も好きだし、抱けるよ。でも―――男に関しては、ちょっと違う気がするな」


「違うって?」


和也の言葉に、潤は小首を傾げた。


「たぶん俺、4人以外は駄目だと思う」


「「―――え?」」


智と和也は同時に声を上げ、顔を見合わせた。


「こないだ旬のこと言われてさ、考えたんだ。でも、やっぱり旬のこと恋愛対照としては考えられない。斗真のことも―――友達としては大好きだし、大事な存在だと思ってるけど、恋愛対照じゃないよ」


「―――じゃあ、俺たちのことは恋愛対照だと思ってるの?」


智の言葉に、潤はちょっと考える様子を見せてから、口を開いた。


「―――うん。たぶん」


「たぶんって!」


思わず声を上げた和也を、潤は手で制した。


「だから、言ってるじゃん、わかんないって。恋愛対照だとするなら、俺は4人を同時に好きになったことになる。でも―――相手側からしたらそんなふざけた話ってないだろうって思うし。でも、俺の正直な気持ちはそうだから。だから―――リーダーやニノがそれじゃあ納得できないって言うんなら俺は身を引くよ」


「身を引く・・・・・?」


智の声が、ワントーン低くなった。


「4人に対して恋愛感情はもう持たない。同じグループのメンバーに徹する。4人の誰とも付き合わない。これまでのこと―――キスしたことも、もちろん告白されたことも、全部なかったことにするよ」


淡々と話す潤。


と、智がスタスタと潤に近付き―――


何の前触れもなく、突然潤にキスをした―――。


 

呆気に取られる和也と潤。


唇を離すと、智は潤を見つめながら言った。


「なかったことになんかさせない」


「さと―――」


「そんなこと、できるわけないじゃん。こんなに好きなのに―――」


智の手が潤の頬を撫でる。


「キスしたこと、俺は絶対忘れたりしない。俺だって他の男に恋愛感情持ったことなんてないよ。潤を好きになるまでは普通に女が好きだったよ。潤は―――男とか女とかの概念を無くした存在なんだよ」


「概念を無くした・・・・・?」


「潤くんは特別だってことだろ?」


和也が言った。


「潤くんは特別で、それに代わるものなんてないってこと。それは、俺も同じ気持ちだよ。たぶん、他の2人もね。―――潤くんにとっても、きっとそうだよね?だからこそ俺たちのことを思ってあんなこと言ったんだ。―――違う?」

 

和也の言葉に、潤は暫く項垂れていたけれど―――

 

「―――勝手に、人の心読むなよ」

 

そう呟いた潤の顔は、微かに赤く染まっていた・・・・・。


 

自分のせいで4人が険悪になることだけは避けたかった。


誰か1人だけを選ぶということができなかった潤が、導き出した結論だった。


だけど、伊達に10年以上も一緒にいたわけではなかった。


潤の考えることなどメンバーにはお見通しで、そしてそう簡単に壊れるような関係ではないのだ。


「―――ごめん」


シュンとしながら謝る潤の頭を愛しそうに撫でながら、智は微笑んだ。


「潤のそういう優しいとこが、大好きだよ」


そう言うと、潤の唇にチュッとキスをする。


「おい!!」


途端に和也が2人の間に割り込むように飛び込んでくる。


「さっきから、俺の目の前でキスすんなよ!」


そう言うと、潤をぎゅっと抱きしめた。


「あ!お前こそ何してんだよ!」


智が和也を潤から引き剥がす。


ギャアギャアとやり合う2人を、潤は暫く見ていたけれど―――。


「―――あのさあ、俺、眠いんだけど、寝てもいい?」


その言葉に、2人がぴたりと動きを止める。


「―――リーダー、帰れよ」


「絶対やだ。ニノ、このソファーで寝ろよ」


「―――あれ、俺のベッドだけど」


2人が暫し睨み合う。


その時―――

 


「じゃ、3人で寝る?」


クスリと妖しく微笑み―――


「なんてね。おやすみ」

 


2人に流し目を送りながら。


潤は1人、寝室に入って行ったのだった・・・・・。



 

「あんの―――」

 

和也が体を震わせながら口を開く。

 

そして2人同時に―――

 

「「小悪魔が!!!」」

 


と、叫んだのだった。


当の小悪魔潤は、既に夢の中だったけれど・・・・・。




 

「「ずるい!!」」


智と和也の前に、雅紀と翔が腕組みをして立っていた。


「えーと・・・・・?なんで2人して怒ってんの?」


頭を掻きながら言う和也を、翔がジロリと睨んだ。


「―――こないだのこと―――潤に聞いた」


「こないだのことって・・・・・?」


「潤が、斗真と飲んだ時のことだよ!」


和也と智の顔が、一瞬にしてひきつった。


楽屋の中を覗き込むと、椅子に足を組んで座っている潤の姿が見えた。


「潤くん!!」


「潤!!」


2人してその名を呼ぶと、潤がニコニコと振り向いた。


「だって、あの時のこと、そっちの2人が知っててこっちの2人が知らないなんて、不公平だと思ってさ」


無邪気なその笑顔に、力が抜ける2人。


「まったくその通りだよな。俺たちに隠し事なんて、潤のことに関してだけは許さないからね」


雅紀も鋭い視線で2人を睨みつけた。


「いや、その―――隠そうと思ったわけじゃないんだけどさ。やっぱり言いづらいっていうか―――」


と、和也がなんとか取り繕うとしたのだが―――


「別に、俺は言ってもよかったけど。結局潤は1人で寝たし、得したのはニノだけだから。俺は何も隠すようなことしてない」


その言葉にすかさず和也が口を出す。


「おい!なんだよ、それ!リーダーだって潤くんにキスしたじゃん!」


「キスくらい、みんなしてるじゃん!ニノなんて放っておいたら潤に何してたか―――」


「それだよ!ニノ、潤に何するつもりだったの!」


雅紀も和也につかみかかりそうな勢いで迫る。

 

その時―――

 

「―――あのさあ」

 

1人のんびりと椅子の背もたれに顎を乗せながら、潤が口を開いた。


「とりあえずそこ、閉めた方が良いと思うんだけど?」


その言葉に、4人は初めて楽屋の扉が開けっ放しだったことに気付いたのだった・・・・・。