​197年16日



「いやー、ブラウンさんに勝てて良かった!」


あたしは、女神の火酒を喉の奥へと流し込んだ


「うへぇー……ママ、朝から酒臭いよ」


その様子を見ていたルネは目を細めて

顔をしかめている。まるで汚い物を

見るような目だ


「なんだとぉー? あたしの酒が飲めないって

言うのー?」

「そんなの飲めるわけないよ。お酒って

苦いんでしょ? 僕苦いの嫌いだし」


ルネは目の覚めるような黄色い液体を飲み干す


「おかわり」


おおー、豪快……


彼が飲んでいるのは、ほろ苦さのある

ムタンジュースだ


苦いの嫌いって言わなかったっけ?


「レライエ、それぐらいにしといたら?」


ルネのコップにジュースを注ぐと、ジーノは

呆れた顔でこちらを見た


「なによー、せっかくあたしが並べたお酒を

ジュースに替えちゃってー……酷いよ」

「酷いのはどっちだ……子供にお酒を出す

なんて……ルネ達はまだ、未成年だぞ?」

「ジーノは固いなぁー……そんなん、ちょっと

ぐらい飲んでも死なないわよ〜」


それに、ルネには素質がありそうだ


成人したらお酒を飲み交わすことが

出来るだろう


「はーい! お酒は没収! ほら、外へ出た出た!」

「あー、あたしの火酒ー!」


まだ残ってるのにー!


奪い返そうと試みるが、あたしの手は虚しく

宙を彷徨うばかりだ


「仕方ない……探索にでも行くか……」


背の高いジーノに敵うわけがない


あたしはがっかりしながら家を出た




***



「なーに? 龍騎士に勝ったっていうのに

暗いわねぇ」

「マリテー!」


ちょうど良い所に!


あたしはマリテに飛び付いた


「うわっ!……どうした!?」

「マリテ、あたしの話……聞いてくれる?」

「えっ……う、うん」


あたしは、聞くも涙語るも涙の今朝の一コマを

マリテに話した……




「なるほどね……そしたら、今から酒場に

行く? まだ、あんたの祝勝会やってないし!」

「さすがマリテ! 話が分かる! そうと決まったら

早速行こう!」






あたしはポマロパスタ、マリテはエンツの

香草グリルを頼んだ


「あんた、ポマロ料理好きよね」

「うん、少し酸っぱいところが好きなんだ

単体だと微妙だけど、魚や麺と一緒に食べると

味が絡まって美味しいんだよね。マリテは

香草グリルなんだ?」

「お酒の肴になりそうでしょ?」



マリテは口の端をあげて笑った



「付き合ってくれるんだ」

「もちろん! あたし達親友じゃん!」

「マリテ〜! 大好き!」




「この季節はラゴステーキと、冷やしたポムワインが美味しいよね」

「じゃあさ、ポムワインとラゴステーキも

頼んじゃおか?」

「いいねいいね! 頼んじゃお! 頼んじゃお!」




「外に出ても暑いし、もう今日は水源の遊歩道で

ラゴでも釣ろうかな」

「いいね、あそこなら日陰になってちょっとは

マシかも」


あたし達は時間の許す限り、飲んで騒いで

盛り上がった





  ​197年17日



しまった……


今日はあたしが先生だった!


二日酔いにはならなかったものの、昨日は

夜1日刻頃までマリテと一緒に飲んでいたのだ


「ねぇ、ルネくん……ルネくんのお母さん

なんかお酒臭くない?」


やっぱり臭ってるか〜……


一番前に座っているデボラ・ガリカちゃんが

ルネに話しているのが聞こえた


「チッチッチ!  大人はめでたい事があった時は

お酒を飲むんだぜ!」

「えー……お酒って苦いでしょ?」


子供のデボラちゃんには理解出来ないようだ


「大人になったら美味しくなるらしいよ」

「へー……魔法みたいだね」

「ぼくも早く大人になって、美味しい

お酒を飲みたいなー」

「わたしもー」


…………どうしよ


隣の子まで巻き込んで、酒飲みの道を

歩んでいるようだ


やっぱり教師が酒臭いのは教育上

よろしくないね……


次からは夕4刻でやめておこう







授業終わりの遺跡探索で、実績達成!






帰宅前に工房に寄って、久しぶりに機械を

動かしたらこっちの実績も達成


やっと100反……


織物は苦手なんだよねー





  ​197年18日



そして、やって来たエルネア杯最終試合


今日の試合でバグウェルに挑戦する勇者が決まる





あたしの対戦相手は、魔銃師のファビエンヌ・

ベルトーニさんだ


このエルネア杯


ブラウンさんと言い、ベルトーニさんと言い

勝ち上がってきたのは魔銃師ばかりだ


ワ国のことわざに、脳ある鷹は爪を隠すという

ものがあるけど……


魔銃師は対人戦はないものの強者揃いのようだ







武器の相性も相まってあたしの勝利!







メリンダ女王にもお褒めの言葉を賜った




あたしが勇者か……


やはり、血は争えないのか……


ここまでこれたのは自分の努力だと思う反面、

あたしの中のマリスがそうさせたのではないかと

思ってしまう


バグウェルは、マリスの事を知っているのかな……


何百年も生きている龍なら、その昔


愚かな行いをした魔女の存在を覚えているかも

しれない


あたしは闘技場の地面を睨みつけた