こんにちは。ゆず太郎です。

 

 本日はたまたま休みだったので、1話アップいたします。杖道ではなく、不思議な話の方です。

私が小学生の頃、親から「あの辺りの山には、最近キツネが出るらしい。近くを通る時にはだまされないように気をつけろ」なんて本気で注意されたことがあります。もう、日本昔話の世界ですよね。今回は、その狐狸にまつわる話です。

 

 

 これは、ずいぶん前にある古老から聞いた話です。 その方は、若いころから不思議な体験をいくつもされていました。 カッパと相撲を取った話、真夜中に走っていないはずの電車の音だけが聞こえた話……。 その中のひとつに、「タヌキに化かされた」という出来事があります。 ここでは、その話を紹介します。古老を仮にAさんとします。

 

 

 昭和の頃。 まだ日が高い午後、学校を終えたAさんは友人と2人、田んぼの中を通る真っすぐな一本道を歩いていました。

ふと前方に、こちらへ向かってくる2人の姿が見えました。 ひとりは風呂敷包みを抱えた着物姿の女性。 そのすぐ後ろを、自転車を押しながら学生服の若者が歩いています。

 

 Aさんたちとその2人の間には小さな川が流れており、木製のアーチ橋が架かっていました。 両者は橋を挟んで、ゆっくりと距離を縮めていきます。

 

 先に橋へたどり着いたのは、着物の女性と学生でした。 二人が橋の中央、一番高いところに差しかかったその瞬間——。

 

 2人の身体が歩いたままの姿勢で、ふわりと斜め上へ45度ほど浮き上がり、そのまま“パッ”と消えた。

 

 Aさんも友人も、声も出ませんでした。

「おい、今の……」。思わず Aさんが言いかけると、友人は震える声で、 「言うな。今は何も言うな」 と遮り、2人は一目散に走り出しました。

 

 数百メートル離れたところでようやく立ち止まり、顔を見合わせて、 「ああ……怖かったなあ」 と息をつきました。

「見たよな。空中で消えたよな」 「見た。確かに消えた」 。そう確認し合った途端、また2人で震え上がったそうです。

 

 家に帰ったAさんは、すぐに祖母へ見たことを話しました。 すると祖母は静かにこう言ったといいます。

「……あの橋の下にはね、昔から年老いたタヌキが住んでいて、時々、人をだますんだよ。 あんたたちも、化かされたのかもしれんね」

 

 ちなみにAさんの住んでいた地域には、昭和に入ってもなお、 山女(やまめ)や河童が山に入ったという“セコ”の話、 山の神に遭遇した人の話など、さまざまな伝承が残っています。

 

 そのような土地の空気の中では、タヌキが人を化かすことも決して不思議なことではなかったのかもしれませんね。