2024年6月18日

 

浅草演芸ホール 6月中席 昼の部

 

 

 平日の昼間、かなり本格的な雨にも関わらず満員に近い盛況。確かに顔づけは豪華でしたね。

 終わって出てみると、浅草仲見世通りがこんなに人が少ないのは珍しいというくらいだったから、落語人気も大したものだ。この日は若い人も多かった。

 浅草演芸ホールには珍しく団体客がいなくて、いつもより客席のマナーはよかったような。ただ、途中から入ってきた若いカップルが私のすぐ前に座り、男性の体格がいいものだから高座を遮って閉口した。これも途中から来て私の左隣に座った若い女性は全く笑う気配がなく、何しに来たのという感じでこちらが居心地が悪かった。

 いや、でも堪能いたしましたよ。

 

 

(敬称略でいきます)

 

◆前座 柳亭市助 『道灌』

 声を張るのはいいが、いささか聞き取りづらい。小生の老化のせいかと思ったものの、後に出演する師匠方の言葉はちゃんと聞き取れるから、やはりこれは演じる方の年季の差かと。30歳の年に前座スタートは遅い方か。まだまだ先は長い。真打になるころ老生は寄席通いの元気はないだろうな。

 

◆柳家小はぜ 『狸の鯉』

 スキンヘッドが印象的・・ごめん、それ以外あまり覚えてない。

 

◆林家つる子 『反対俥』

 私の記憶が正しければ、一昨年のNHK新人落語大賞で演じたネタ。正座の姿勢のまま跳びあがったり180度方向を変えたり、たいへんな肉体労働である。ひさしぶりにつる子渾身のナンセンス落語を見た。つる子らしい汗の光る噺で、どうやらこの路線を続けていくみたい。といっても人情噺もやるから、桃花よりは守備範囲は広いと見た。

 この日のようなおもしろ落語にはキャラが合っているのだが、じっくり聞かせる噺の場合はやや力み過ぎの印象が強い。5年後、10年後にどういう噺家さんになっているか期待度大ですね。
 

◆柳家小春 粋曲

 

◆古今亭文菊 『初天神』

 独特の雰囲気、というかやや おねぇキャラは好きではないが、惹きつける雰囲気があることは認める。

 落語本編に入るとうってかわって迫力ある語りで、さすがの古今亭と思わせる。軽いネタと言っていいだろうが、前座との違いを際立たせる。かなり端折っておしまい。もう少し聴きたかった。

 

◆三遊亭萬都 『留守番小坊主』

 三遊亭萬窓の弟子。5月に二つ目に昇進したばかり。前座名は出身地の高知県四万十町にちなみ「まんと」。昇進を機に漢字に改めるにあたり、師匠の字を一時もらい、四万十町の十を加えて「萬十(まんと)」としようとしたが、自分の見かけでは「まんじゅう」としか読んでもらえそうにないので、「萬都」としたと。

 だからというわけで?この日のネタはまんじゅうの出てくる「留守番小坊主」。たぶん狂言の曲目「附子」がもとになったものでしょう。

 そつなく語るが、強い印象もない。どこかではじけることを期待しております。

 

◆ロケット団 漫才

 この日も「待ってました」の声がかかる。といってもこの日はたぶん同じ人だと思うが、掛け声が何度もかかっていた。それには関係なく、安定の笑い。何度も同じネタを聞いているが毎回爆笑。文句なし。

 

◆墨田川馬石 『粗忽の釘』

  ロケット団で客席が沸いたすぐ後で、少しやりづらそうだった。非常にきちんとした語りで、次の三平と出番を入れ替えた方がよかったような気がする。

 

◆林家三平 『ざる』

 実はこの人の高座を見るのは初めて。意外に下手ではなかった、という言い方は失礼かな。テレビの「笑点」は見ないのでそのようすは知らないが、あれでだいぶ評価を下げたみたい。大喜利は向き不向きがあるだろうから、この人の方向には合わなかったということだろう。

 小噺をいくつも喋っていて、このまま林家流の小噺で終わるのかなと思っていたら、「ざる」(米揚げ笊)を語った。まぁこんなもんかと。

 

◆如月琉 マジック

 本人は「手品」という言い方にこだわる。寄席の色物としては上々の手品師と思う。が、同じネタはそろそろ飽きてきた。

 

◆鈴々舎馬風 

 何度も言うが引退した方がよい。芸とは言い難い世間話を何度も聞かされると、「おじいちゃん、それはさっき聞いたよ」と言いたくなる。

 

◆柳亭燕路 『蝦蟇の油』

 例の香具師の口上を語るところが売り、というものの、自分で「うまいでしょ」と拍手を要求するのは語るに落ちた。さほどうまいとは思わない。聞き取れない部分がかなりあった。

 柳家はん治との日替わり出演。二人とも人間国宝柳家小三治の弟子。燕治は65歳、はん治は69歳。二人とも大学卒(燕治は早稲田大学教育学部、はん治は國學院大學)。それでこれか。

 

◆おしどり 漫才

 針金芸も見慣れてそれなりにおもしろい。テルミンを含めて、これいつまでこの芸続けるのかな。

 紙切りばりに、客席の声に応えて針金を曲げて形を作るというので、出たリクエストが「ボウリングの玉」。どうするかと思ったら見事に作りましたね。あっぱれ!

 

◆三遊亭圓歌 『夜間工事』

 パワハラで元弟子から訴えられたということで印象は悪い。

 実は初めて見た。マクラの段階から喋りはよく言えば独特、悪く言えばはちゃめちゃ。だが聴いているうちに引き込まれていった。

 出だし、隠居のところへ八っつぁんが来て物を訪ねるところ、『やかん』かと思わせてさまざまギャグをかます。いよいよ『やかん』が始まるかと思いきや、道路工事で地面を掘り返すとやたらにものが出てくる。夜しか出てこないから「やかん」。オチかと思えば噺はまだまだ続く。

 

 いや~これは個性だ。落語ですらないかもしれない。

 

◆柳亭市馬 『かぼちゃ屋』(唐茄子屋)

 一転正統派の古典落語。音曲ものではないが市馬の面目躍如。

 この噺は元ネタの上方落語「みかん屋」を、たしか桂雀々で聴いたことがある。市馬らしい重厚で誠実な語り。堪能いたしました。

 

◆柳亭こみち 『お菊の皿』

 こみちさんは、古典落語を女性版にアレンジするのが得意と理解している。この日の噺はごくオーソドックスに語る。それはそれで聴かせたものの、ややパンチ力に欠けた。

 

◆翁家社中 曲芸

 太神楽ができる芸人さんてどれくらいいるのだろう。貴重な芸能であるね。

 

◆林家正蔵 『新聞記事』

 5月23日の国立演芸場(改修中で会場は紀尾井ホール)(つる子の真打昇進披露興行)で聴いたときと同じネタ、というよりマクラまで一言一句同じというのはあまりに芸がない。

 この日は弟の三平と同時出演。初代三平が名人かというとそんなことはもちろんないが、しかし初代三平なくしてこの兄弟の現在のポジションはないだろう。

 

◆柳家小ゑん 『下町せんべい』

 70歳には見えない。先代小さんの弟子というのも意外。この噺は自作ではないが新作中心に演じているそう。シンプルにおもしろい。

 小惑星「小ゑん」は天文マニアの小ゑん師にちなんで命名された・・って、発見者は落語マニアか。

 

◆立花家橘之助 浮世節

 比べるのも申し訳ないが、この日早めに出演した小春姐さんより圧倒的に客席を惹きつけていた。要は客席とのコミュニケーションの取り方の違いかと。

 

◆柳家三三 『湯屋番』

 いつもは余裕かましているのか手を抜いているのかぎりぎりのところだが、この日は主任とあってきちんと力が入った印象。いや、見る側が勝手に先入観を持っているだけかもしれない。

 噺の方は、大店の若旦那が遊びが過ぎて勘当され、居候先の棟梁に紹介状をもらって湯屋で働き始めるという話。導入部で、どこの世界でも初代は身一つから身代を成すが、二代目三代目がそれを食いつぶしていく、落語の世界でもね、今日は兄弟で出ておりますが、と揶揄して客席爆笑。

 三平の出番は木久蔵(木久扇の息子)と日替わりだから、これも二代目。からかわれる方はちょっとズキンとくるだろう。いやいや林家は、そんなこと言われるくらい へ でもないか。

 これたぶん半分以上本気で言ってると思う。