2024年6月13日

 

 

(敬称略でいきます)

上野鈴本演芸場 六月中席昼の部

落語協会百年特別興行

 

 

 上方より六代目桂文枝師匠を招いての特別興行。みんな気を使うこと使うこと。さすが上方落語の重鎮、というより今やトップと言うべきか。

 

 浅草演芸ホール5月下席も落語協会百年興行で、私は29日の昼席に出かけた。今回と顔づけで共通するのが、柳家三三、立花家橘之助、柳家さん喬、柳家権太楼であった。

 

落語三昧 #60 浅草演芸ホール 5月下席昼の部 | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)

 

 ほかに主な名前では浅草は、江戸家猫八(私が行ったときは手品の如月琉が代演)、古今亭菊之丞、三遊亭歌奴、橘家圓太郎、五街道雲助、柳亭市馬、この日の鈴本では蝶花楼桃花、林家彦いち、鈴々舎馬風(この人ははっきり言ってきらいだけど、元落語協会会長にして現在最高顧問なので名前は上げておく)といったところ。やはり普段よりかなりビッグネームあるいは人気の高い演者がそろった興行だったのは間違いない。

 

 さすがに客席の盛り上がりもよく、舞台の側でも気持ちよく演じることができたと信じる。両日共通して、三三、権太楼、さん喬、ロケット団は客席の受けも最高でありました。橘之助姐さんも安定の高座。

 

 この日のネタをメモしたプログラムを夕食をとった料理屋に置き忘れてしまい、全部は完璧に思い出せないが以下の通り。

 

◆前座 入船亭辰ぢろ 『やかん』 

 前回よりはよかった。入船亭は皆上手だから鍛えてもらってください。

 

◆金原亭杏寿 『ざるや』(だったと思う)

 上方落語の『米揚げ笊(いかき)』を移したもの。

 前回末廣亭で見た時はまだ二つ目になって間もない時だっただろうか。アニメ声は落語家としてはむしろデメリットだろうが、桃花も頑張っていることだし、致命的とも言えない。真打まで道は長いが挫けないで。

 

◆アサダ2世 奇術

 毎度同じ運びだが面白い。ただし若い人ではこの雰囲気は無理。

 

◆林家はな平 『味噌豆』(たぶん) 

 初代三平流の小話から入って何をやったんだったか。持ち時間7分とか言って『味噌豆』を語ったのかな。

 真打昇進は蝶花楼桃花と同期だからかなりの若手。前にも一度くらい聴いたような気がする。くっきりした顔だちと堂々たる恰幅で見映えはたいそうよい。語りも滑らかで、個人的には師匠正蔵より好印象なくらいだ。どこかで化けることを期待したい。

 

◆柳家三三 『両泥』

 泥棒の話は落語にいろいろあるが、これは初めて聴いた。相変わらず飄々とそつなく運ぶさまは、柳家花緑を少し崩したような雰囲気(個人の感想です)。花緑は完璧な印象があって、聴く方も姿勢を少し正してしまうところがあるが、三三はそんな心配はいらない。だらしなく聴いてもしっかり笑わせてくれる。何の気づかいもなく、三三の手の平で踊らされていればよいのだ。

 

◆橘家橘之助 浮世節 

 普段は中トリ(仲入り前)の前とかひざがわり(大トリの前)の出番で時間調整をみごとにやってのけるのだが、この日は意外に早い顔見せ。いつもよりじっくり演じた印象で、お客をぐっと惹きつけた。さすが。

 

◆蝶花楼桃花 

 誰の手になるかは知らないが新作落語。アラサーの女性が一人でバーに入ってカウンターで管をまく。古典を演じる場合は、健気さが感じられて悪くないのだが、新作だと、単に女性タレントが一人芝居をしている風情で食い足りない。

 男女問わず、新作で客席を唸らせるのはかなりの実力が必要でありますね。

 

◆柳家権太楼 『代書屋』

 いつもながら客席爆笑。にじみ出るおかしさ。ハチャメチャなようで冷静に語る姿は本格派と言ってもいい。

 

◆柳家はん治 『妻の旅行』

 この日唯一はずれ。人間国宝小三治の弟子ということは、三三の兄弟子か・・。三三に圧倒的に負けてる。前に見た時も三三と同じ日だった。三三が若干揶揄していたのは半ば本音も入っていたのかな。

 今年70歳とは意外に若い。真打になって30年超とはさらに驚き。

 この作品は文枝の創作落語。

 

◆翁家社中 太神楽

 安定の演技。太神楽は寄席にはかかせない。

 

◆柳家さん喬 『天狗裁き』

 権太楼とさん喬を同じ日に聴ける幸せ。それぞれ爆笑落語の巨匠と正統派の名人と言われるところ、両師匠が今の東京落語界のツートップと言ってもよいのではないか。

 

◆林家ぺー 漫談

 あ、これもはずれ。

 初代三平の全盛時代にその弟子としてよく露出していたので、この日の客席の世代にはなじみがあって笑いも起きていたが、芸としてはかなり疑問。

 チューニングの全くできていないギターを、抱えているだけかと思ったら、実際に鳴らしたので驚いた。いや初めて見たわけじゃないけど。これは前に正蔵が呆れていた。

 今年83歳になる。引退をお勧めする。

 

◆林家彦いち

 新作落語の大家とは言われるし、おもしろいとは思うものの、三遊亭白鳥に比べるとネタのレベルが・・。これを落語と呼んでいいのか。

 

◆鈴々舎馬風 「楽屋外伝」と称する与太話

 落語協会の香盤ではこの人がトップである(元落語協会会長、現在最高顧問。今年85歳になる)。ちなみに色物では香盤最上位は林家ぺーである。ペーは落語家ではないのね。

 

 馬風にしたところで、番組案内には「落語」と表記されているが、最近はこの「楽屋外伝」以外のネタはかけたことがなく、中味は品のない暴露話がほとんどだ。この日は今まで聞いたのに比べると、悪口雑言のトーンがおとなしく、一応黙って聞くことはできた。

 ただ、舞台に上がるのに介添を必要とし、もちろん座ることもできないから椅子が用意される。高座に出るときも下がるときもいったん幕を下ろして介添に支えられる姿を見せないようにはしている。もう引退してはどうか。

 

◆ロケット団 漫才

 毎回同じネタだけど、安心の笑い。客席の受けもいつもながら大きい。山形弁ネタ、四字熟語ネタ、安定のおかしさ。登場したとたん客席から、「待ってました」と声がかかる。寄席通いを始めてから2-3年だが、色物でこれだけ声がかかる芸人さんは他に知らない。私は好きだな。

 

◆桂文枝 『初恋』

 折しも桂米朝一門の最長老ざこば師が前日(6月12日)亡くなったことが報道されたが、それには触れず淡々と噺を始める。例の「いらっしゃ~い」もなし。ちょっと意外だった。

 

 もうすぐ81歳とは見えぬ若々しさ。三遊亭好楽、三遊亭小遊三より年上である。ずっと文枝の方が若く見える。

 上方落語協会第6代会長で、会長退任後は平会員を経て2020年6月に特別顧問に就任。最近会長再登板の意欲を見せたとか、人間国宝に対する野心も隠さないとか、まだまだ脂っけが抜けてないようだ。

 

 マクラで、六代目文枝を襲名してからすでに12年近く経過しているのに、未だに三枝の方が通りがいいという自虐ネタを披露していた。45年間三枝の名前で活躍していたから無理もない話で、私も顔を見るとまず三枝という名前が浮かぶ。

 

 落語本編は当然新作落語(文枝は『創作落語』と称している)。ある高校の国語の授業風景。島崎藤村の「初恋」を男子生徒に諳んじさせるところから始まる。意外にテンポもゆっくりで、上方漫才のような畳みかけるような運びではなかった。

 本人創作の落語は320編を数えるとのことで、『読書の時間』、『妻の旅行』は他の人で何度か聴いたことがある。『ゴルフ夜明け前』は生では聴いたことはないが、映像で一度見たくらい。

 

 落語の定席のなかった上方に、天満天神繁盛亭を設立するのに尽力し、弟子も数多い。『ゴルフ夜明け前』では文化庁芸術祭大衆芸能部門大賞を受賞している。案外人間国宝ってありかも。今上方落語の枠が空いている。有資格者は文枝以外に見当たらない。

 

 

 太鼓を叩いているのは柳家小じかさんですね。この日は出番がなかった。立川談春のベストセラー「赤めだか」に、ハゲの前座(立川談談 二つ目になって朝寝坊のらく=故人)は珍しいという記述があったが、そう言われてみると他にハゲの前座は思い浮かばない。

 

 前に見た時は髪を伸ばしてちょんまげにしていたがやめたみたい。似合っていたのに。

 

 充実の午後でありました。

 

 

 これはこの日の夕食。根津の ”甚三紅”。最近ちょっと贔屓にしている。