2024年6月7日

 

菊之丞・兼好二人会
江戸深川資料館

 

 

 落語好きの友人と誘い合って行く予定をしていたのが、その友人はまだ某企業の現役役員で、会社がサイバー攻撃を受けて対応に忙殺されているといういかにも今風の事情で急遽キャンセル。友達のいない私は途方にくれたが、落語初めてという別の友人がつきあってくれてチケットを無駄にせずにすんだ。

 

圓楽一門会になぜこのような名人が

 

例によって個別に感想を。

 

◆前座 三遊亭けろよん 『本膳』

 けろよんさんは、亀戸梅屋敷寄席で何度も聴いている。よく通る声、堂々たる高座での姿、よどみない語り、どれをとっても前座の中では頭抜けている。人材不足の圓楽一門会としては頼もしい前座さんであるに違いない。大事に育ててほしい。

 

◆三遊亭兼好 『看板のピン』

 今回いっしょに行くはずだった友人と以前兼好師を聴いた時、「あの師匠によくこういう上手な弟子が出たものだよね」と語り合ったのであった。

 朗々たる声で始まり、一瞬で客席を惹きつける。マクラでは菊之丞師は音曲ネタが得意だという話を振って、自分たちはどうしてもドレミの音階に引っ張られてしまうが、菊之丞さんは和の情緒で歌い上げると褒めつつ、「柳亭市馬か」などと茶々を入れて客席爆笑。連れの友人は落語には詳しくないので後で解説をして差し上げる。

 本編は実に滑らかで、話者の転換、場面の展開、最後まで客席の気をそらさない。圓楽一門会の絶対的エースとして安定の高座でありました。

 

◆古今亭菊之丞 『船徳』

 船頭の舟歌など得意の節回しを聴かせてくれる。

 マクラでは、兼好師とは仲がよくて自宅に食事に招いたこともあるという話をして、そのとき着物がよごれてはいけないので、自分の浴衣を着てもらったと。「落語協会」の銘入りで、兼好さんも協会に戻ってくれたらいいなとか。早晩圓楽一門会は人材、資金とも運営に限界がくるだろうから、案外これも冗談ではないだろう。むしろ期待したい。

 

ー仲入りー

◆古今亭菊之丞 『棒鱈』

 先日「浅草演芸ホール 5月下席 昼の部 落語協会100年興行」で聴いたばかり。安定しておりますね。この噺も田舎侍が歌う場面とはいえ、得意のノドを披露。たしかにこの人は音曲ネタは多いような気がする。

 直接の師匠ではないが、古今亭一門の大先輩である五街道雲助師の話に触れる。国会議員の落語好きが集まった落語議連に招かれて、つい先日国会で雲助師が一席ぶったそうだ。その時かけたネタが『死神』。まぁそれはいいとして、途中で唱える念仏に時事ネタを入れ込むのが恒例で、「裏金規制」という言葉を入れたものだからちょっと微妙な空気だったみたい。「来年あたり、重要無形文化財の指定取り消されてるかもしれませんね」で笑いをとった後、「さん喬師匠が代わりになったりして」と。

 ん~、やっぱり落語界の中でも雲助師とさん喬師とのバランスは微妙なんだね。

 

◆三遊亭兼好 『風呂敷』

 これも抜群のおもしろさ。菊之丞師の実力になんの文句もないが、この日はやはり兼好師の存在感が上回っていた。いっしょに行った友人も兼好さんの方がおもしろかったと言っていた。もちろんかけるネタによっても印象は変わるだろうが、適度の外連とそこはかとない品のよさのバランスが最もよくとれている噺家さんという気がする。私の推しは、壮年層では柳家三三、桃月庵白酒、桂宮治、春風亭一之輔、入船亭扇辰あたりだが、爆発力では兼好さんの方が上かもしれないと思えてきた。

 外野があれこれ言うことではないと思うものの、落語協会に戻って落語界全体の発展に力を尽くしてほしいぞ。

 

 
 

 この日の会場は、清澄白河の江戸深川資料館。落語会は熱心に開催されている。

 つい先日、清澄庭園にも行ったばかり。そこでみかけた見事なスッポン。

 

同上

 

 

 えー、ついでと言ってはなんだが、先日行った林家あんこさんの落語会の記録も(2024年5月30日)。

 印西市文化ホールではこの「お気楽寄席」というのを定期的に開催している。無料!

 平日昼間であるからほぼ100%が非生産年齢のジジババで、特に落語ファンとも見えないようすの観客が大部分である。それでもあんこさんは手を抜くことなく、まじめに高座を務めてくれた。

 あんこさんの実のお父さんは林家時蔵師であるが、父に入門したわけではなく、林家しん平師に入門している。しん平師の入門時の師匠は先代の林家三平であるものの、あんこさんが入門した時点ですでに先代三平は亡く、こん平門下に移っていたから、さん平の孫弟子というよりは、こん平の孫弟子ということになろう。

 

◆二人旅

◆松竹梅

 

◆余興 南京玉すだれ

 

 こん平一門というから、いかにも初代三平の流れを含む爆笑落語かと思いきや、むしろ正統派の落語と思えた。誠実できちんとした高座は、やはりこん平一門の女流、林家ぼたん師を思い起こさせた。

 『笑点』を見ないのでよく知らないが、笑点にはアシスタントというのがいて、あんこさんはそれを務めているそう。で、その前任がぼたん師になる。

 

 最近は大学出の噺家さんが多いとはいえ、このあんこさんもぼたん師も大学卒である。あんこさんは東洋大学 文学部日本文学文化学科、ぼたん師は日本大学生産工学部数理工学科の卒業。さらに言うと、ぼたん師はその後日本大学大学院総合社会情報研究科文化情報専攻言語教育研究コースを履修、2023年3月修士課程を修了している。

 

 立川小春志師の各種媒体写真でも感じるのだが、あんこさんもこのチラシの写真、もっと映りのいいのを使えばいいのに。ご本人の方がずっと華があるお顔立ちです。芸人はそんなことに気を使っちゃいけないのかな。いや、でも桃花師の写真はけっこうあざといよ。