2024年5月29日

 

浅草演芸ホール 5月下席 昼の部 落語協会100年興行

 

 

 

 

◆前座 春風亭貫いち 「十徳」

 一之輔師匠が顔づけされている時はほぼこの人が前座で登場するような印象。そつなく語る点は高評価だが、なにか物足りない。前座にそこまで要求するのは過大かな。期待の裏返しですよ。

 

◆柳亭市次郎 「金の大黒」

 柳亭市馬の弟子で次郎とは2番弟子かと思いきや、七番弟子でございます、というのが定番の前口上だが、ほとんど切り口上に近くなっている。春風亭一朝師が「いっちょう懸命にやります」というのと似ている。

 本編はそこそこ。

 

◆玉屋柳勢 「死ぬなら今」

 最近の落語界高学歴化の典型とも言える早大教育学部卒。そつなく語るし見映えも悪くないが、爆発的な魅力が感じられない。何が必要なんだろう。落語鑑賞歴の浅い私にはまだわからない。

 

◆おしどり 漫才

 針金芸?を見るのも何度目か。見ていて飽きることはないものの、しゃべくり漫才ではないのでテレビ向きではないのかもしれない。

 

◆春風亭一之輔 「壺算」

 早い出番はこの後も他で出番が待っているのだろう。このネタはいろいろな噺家さんで聴いたが(一之輔師でも複数回)、この人がやるとどんなネタでも爆笑噺になるのは見事。

 

◆入船亭扇七 「ニュース指南」

 先日テレビだったか、この人の特集?を放映していた。NHKのアナウンサーを退職して落語に入門したという変わり種。その時の映像に比べるとずいぶんすっきりした容貌で、さすがに元アナウンサーだけあって滑舌よく、話の運びも見事。並みの若手噺家では太刀打ちできない。

 ネタは「あくび指南」をアレンジした噺。もしかしたら自らの手になるものか。この5月下席から二つ目に昇進したばかり。これは将来楽しみな人が出てきた。

 NHKを退職する際、若手の女子アナがはなむけの言葉に「鈴木(本名)さんの将来は前途洋々」と言おうとして「前途多難」と言ってしまった。それを指摘されて、「え~っ、アタシ前途多難って言っちゃいましたぁ?アタシほんとのこと言っちゃって」。

 二つ目なりたてでこれだけ客席を沸かすのも大したもんです。

 

◆如月琉 マジック(江戸屋猫八さんの代演) 

 本人は「手品」の呼び方にこだわる。しゃべりも運びも現役の寄席マジシャンの中ではトップクラスと思う。

 

◆古今亭菊之丞 「棒鱈」

 安定してますね。安心して聴いていられる。

 

◆三遊亭歌奴 「人情匙加減」

 ダレかけてきた客席の雰囲気を引き締める。よく通る大きめの声、恰幅よく高座の姿も美しい方だろう。ちょっと声を張り過ぎかなと思えるくらいだが、この出番にはちょうどよかった。

 

 ー仲入りー

 

◆ホームランたにし 漫談(紙切りの林家二楽師の代演)

 漫才の相方が2年前に亡くなって、その後ピン芸人を続けていると。ヴェテランらしい落ち着いた喋り。

 

◆柳家さん喬 「そば清」

 さすがのヴェテラン。大御所と言ってもよかろう。客席から「待ってました」と声がかかる。「ご声援をいただきまして、(一拍置いて)『そんなわけねぇだろ』と心より思うわけでございます」客席爆笑。

 以前、五街道雲助師が人間国宝の認定を受けた時、ネット民の間で「香盤では上位にあるさん喬師の心境やいかに」というお節介が見えたが、たしかにそういう気分にはさせられる。さん喬師と雲助師、あるいは小朝師を分けたものは何か。桂米朝師匠が上方落語初の人間国宝に認定された時は、まずどこからも異論はなかっただろう。今上方で枠がひとつ空いているといえば空いている。これ、もしかしたら東京落語に振るという話があるかもしれませんぞ。

 

◆橘家圓太郎 「真田小僧」

 これは前半で噺を終えるのがむしろ今は普通なんだろうが、そうするとタイトルの「真田」がなんのことかわからない。

 それはそれとして、さすがのヴェテラン、と言いつつ師匠は春風亭小朝師というからちょっと驚き。年はいくつも変わらないような気がする。小朝師は私と同年代と思っていたからね。私の1歳上だ。その弟子がこんな爺さんかい、思ってしまった。圓太郎師は今年62になる。

 

◆ストレート松浦 ジャグリング

 大道芸から展開されたものなんだろうね。見事なもんです。寄席で見るのは初めてではないが、色物というのは立ち位置がなかなかむずかしい。

 

◆柳家小満ん 「馬のす」

 いつもならトイレットタイムにするところ、大丈夫だったのでそのまま席にいた。それ以上のコメントはなし。

 

◆柳家権太郎 「無精床」

 爆笑落語の巨匠。この日は落語協会百年興行ということで、まくらでそれに触れる際、落語芸術協会のことにも触れて、ネタとはいえけっこうくさしていた(もしかしたらさん喬師匠だったかな)。落協と芸協ってやっぱりそれほど関係はよくないのかな。

 上野鈴本も浅草演芸ホールも落協と芸協が交替の興行になるところ、顔づけを見るとやはり落協が圧倒的に名前勝ちしている印象。百年記念なので、顔ぶれも豪華になっている傾向はある。今日の顔づけはその典型かもしれない。

 

ー仲入りー

 【挨拶】 圓太郎師匠がまず話をした後、落語協会の会長の市馬師匠も顔を出さないわけにはいかない。意外に市馬師はフリートークは上手じゃないとは思っていたが、この日など用意したスピーチのはずなのに冴えないのに驚き。圓太郎師の方がはるかにこなれたトークだった。

 後ろ幕は猫八師匠がデザインしたものだそうで、「人」が「入」る、末広がりの「八」を組み合わせた図柄で、モダンで斬新で、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の経歴はだてじゃないということだろうか。

 「八」は猫八の八だと市馬師が茶々を入れていたが

 

◆ロケット団

 この日の笑いの量ではNo.1だったような気がする。ナイツに比べると知名度はかなわないが、もっと売れていいコンビだと思いますよ。ちなみにナイツの塙が漫才協会会長で、このロケット団の三浦 昌朗が副会長である。

 

◆五街道雲助 「権助魚」

 さすがは人間国宝。よく通る渋い声。貫禄ある高座の姿。

 名人と言われる人でも、その弟子を見ると「えっ」と思うことがあるが、この方の場合は弟子も優秀。その辺が無形文化財認定の背景にあったのかもしれない。

 いや、でもさん喬師も小朝師もその門下に有力な噺家は多いぞ。うーむ。

 

◆柳家三三 「つる」

 わりあい軽めのネタかな。いろんな噺家で聴いたがこの人がやるとやはり全然違いますね。

 

◆立花家橘之助 浮世節

 私この方好きです。至芸ですね。音曲では桂こすみ姐さんも好き。お二人とも聞き惚れる。

 

◆柳亭市馬 「三十石夢の通い路」

 舟歌というのか、船頭が舟を漕ぎながら歌うところが聞かせどころ。音曲ネタを得意とする師匠らしい噺。大トリにふさわしい重厚な噺を聴かせていただきました。江戸弁と関西弁を自在に使い分けるところもさすが。堪能いたしました。

 市馬師は昔の名人で言えば、師匠の小さんではなく圓生の方に雰囲気が近いような気がする、と言って私圓生の顔と名前は知っている程度だ。いずれにしても市馬師はいかにも今の名人という風情が漂ってきた。62歳と意外に若いのはむしろびっくりだ。

 

 

 この日の顔づけは実に豪華でありましたね。さっきも書いたが、落語芸術協会ではこれだけの名前をそろえることも厳しいか。