2024年5月28日

 

映画 ”関心領域”

(京成ローザ)

 

これは重かった。

 

 

 

 

 

 最後にヘスが嘔吐する場面に突然現在のアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所の映像が現れる。掃除をする職員たちの姿。そして収容所の犠牲者の遺品。数えきれない靴、義足、松葉づえの山。

 

 私は2012年3月にこの世界遺産を訪れた。あの日見たそのままの光景。あの時の戦慄が蘇えって、映画館の暗闇の中で震えがとまらなかった。エンドロールに重なるなんとも言えない不協な音楽が、不穏な気持ちをさらに煽る。

 

 ヘスとその家族がこの映画の通り平穏に暮らした屋敷跡もこの目で見た。

 

 煙を吐いて収容所に到着する列車。映画では煙が映されるだけだったが、そこには家畜以下の状態でユダヤ人が詰め込まれている。劣悪な環境のために、到着までに命を落とす者もたくさんいた。

 到着後ただちに選別され、使役に耐えないと判断された者は即ガス室送りであったという。病人、子供の多くにはその運命が待っていた。

 

 その列車の引き込み線が今でも残されている。

 

 ユダヤ人たちが連行されてきて、なけなしの衣類や貴重品を詰めたトランクはその場で没収される。高価な毛皮や宝石を嬉々として選別する収容所長ヘスの夫人。

 

 映画には収容所の内部も、そこで行われた蛮行も一切出てこない。囚人たちの阿鼻叫喚の声や、銃声や、ナチの兵士の怒号が、遠く聞こえてくる。

 

 夫人の母親が呼び寄せられてともに生活を始める。当初はその一見豪華な暮らしに、娘の夫の出世を喜ぶが、やがてその異常な日常に耐えられず去っていく。

 

 

 

 ホロコーストはナチスによって実行された人類最悪の犯罪と言ってよい。しかし、だからといって、今のイスラエルの、国家意思の体現としての戦争行為が正当化されるとは思えない。過去における放浪の民としての境遇には同情もしよう。しかし、2000年前に自分たちが住んでいたからここは俺たちの土地だ、と言われて家を追われたパレスチナの人々がそれで納得できるはずもない。イスラエルの行為は、極端に言えばホロコーストの裏返しだ。

 

 イスラエルの行為は報復として当然の権利だなどと、この現代世界において考える人はごく例外的であるに違いない。その後ろに大国の思わくがあり、原因を作っておいて後始末をつけなかった諸国の無責任がある。

 

 賢者が歴史に学ぶのだとしたら、今の人類は経験にすら全く学んでいない愚者なのか。

 

 アウシュビッツのガイドを務めてくれた女性が、ツアーの最後に涙を流しながら、「人間は何の進歩もしていない。過去にこれだけ悲惨な経験をしているのに、未だに世界中で戦争がやむことがない。ここ(アウシュビッツ)で起きたことは、今もくり返されている。」と語った。

 彼女のおじいさんがこの収容所で犠牲になったという。彼女は、毎日、毎回、ガイドをするたびに泣いているのだろうか。彼女の涙が乾く日が来るのだろうか。

 

 

【キャスト】    

  • クリスティアン・フリーデル;収容所長ルドルフ・ヘス
  • ザンドラ・ヒュラー;ヘス夫人

【スタッフ】

  • 監督・脚本    ジョナサン・グレイザー
  • 原作    マーティン・エイミス『The Zone of Interest』
  • 製作    ジェームズ・ウィルソン、エヴァ・プシュチンスカ
  • 製作総指揮    レノ・アントニアデス他
  • 音楽    ミカ・レヴィ
  • 撮影    ウカシュ・ジャル
  • 編集    ポール・ワッツ
  • 製作会社    フィルム4、アクセス、ポーリッシュ・フィルム・インスティテュート、JW・フィルムズ、エクストリーム・エモーションズ   

アメリカ、イギリス 、ポーランド合作
日本公開 2024年5月   

 

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上映時間    105分