2024年5月23日

 

林家つる子・三遊亭わん丈真打昇進披露興行

 

国立演芸場(改修中のため紀尾井ホールで開催)

 

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 いちばん受けていたのは口上の五明楼玉之輔師匠のパートではなかったか。あることないこと喋り散らかして、客席爆笑。ほかの出番の誰よりも受けていたのはちょっといかがなものか。

 

◆前座 入船亭辰ぢろ 『やかん』

 達者な喋りだが、序盤ずいぶん早口で、間(ま)をとる余裕も何もない。話が進むうちにだんだんこなれてきてそれなりに聞かせたとはいうものの、やはり前座は前座かな。

 

◆三遊亭伊織 『寄合酒』

 二つ目にしては堂々たる落ち着いた高座で、あまたいる下手な真打よりよほど好ましい。といっても二つ目にしては、という話であって、真打になれば何かはじけたものが欲しい。

 

◆五明楼玉の輔 『マキシム・ド・呑兵衛』

 三遊亭白鳥師の手になる新作落語。さすがにご本人の高座と比べるのは気の毒か。とはいえなかなかのできばえで客席の受けも上々だったように思う。前回この人の高座を聴いたときはなんのネタだったか。その時よりはるかにおもしろかった。

 

◆青空一風・千風 漫才

 初めて見た。う~ん。テンポがいいわけでもないし、独自のネタがあるわけでもないし、華やかさには欠けるし、いいところを見つけるのがむずかしい(個人の感想です)。

 

◆三遊亭天どん 『有名人の家』

 ぐだぐだでしたね。終演後似たような感想が聞こえてきたから、私だけのひねくれた感性ではないぞ。

 マクラの段階で、客席をいじるというよりバカにした態度をことさら強調して鼻白む思い。国立演芸場の客は優しいから笑ってくれていたが、他の定席だとどうだろう。

 自分が今日はこれをやると決めたことから一歩も出ないから、その場の空気にあっていない。これが上手な真打なら臨機応変にしゃべりを変えるから、イヤミがないのだが、そういう技量は見受けられなかった。

 

 わん丈の師匠という立場なので顔づけされているわけだが、わん丈はもともと圓丈に弟子入りしたところ、圓丈師が亡くなったため、圓丈一門の兄弟子のところに預かりとなるところ、どういう経緯か知らないが(口上では玉の輔師がおもしろおかしく説明していたが、たぶんでまかせ)圓丈の三番弟子にあたる天どん一門に移った。

 前座のときからわん丈を名乗っていたところ、真打昇進にあたり改名かと思ったら、そのままわん丈でいきなさいと言ってもらったと、わん丈が感慨深く語っていた。きちんと後輩の世話をするよい師匠なのでしょう。

 

◆林家正蔵 『新聞記事』

 今や落語協会の副会長であり、すっかり大御所になってしまった。私の席の近くの男性客が、貫禄着いたねと言っていた。62歳にしては少し老けているかな、という気がするが、たしかに見かけは協会幹部の風情だ。だが、今まで何度か聴いて、うまいと思ったことがない。

 今日は一応古典落語に分類されているのであろう「新聞記事」だが、初演は明治の終わりごろというから、典型的な古典落語の江戸情緒には遠い。なんだか語り手と同じで中途半端・・言い過ぎました。

 

◆春風亭だいえい+三遊亭わん丈のオーディオガイド 『子ほめ』

 落語協会の昇進披露公演は、新真打が交替で主任を務めるので、今回の二人が同じ日に高座に上がることはないと思っていたら、この日は例外的に二人そろって登場。

 そうはいってもわん丈がきちんと一席演じるのではなく、だいえいが落語を語る節目節目で解説(怪説?)をつける新趣向。いや、しかし、わん丈自身が言ったとおり、落語はイヤフォンガイドなど無用のわかりやすい芸能。成功したとは言えないね。

 

 だいえいの落語がしっかりしているので驚いた。二つ目になってまだ1年半。前座時代から気配りのできる、よくできた「スーパー前座」との評判が高かったと。前座の時は枝次と名乗っていたところ、二つ目昇進を機に「ダイエー」。スーパーってそういう意味?

 

◆鏡味仙太郎・仙成 太神楽

 たぶん3度目くらい。安定しておりますね。

 国立演芸場は一応定席として数えらえれていると思うのだが、客筋は明らかに他の4つの定席とは異なる。寄席は初めて、と語るおしゃべりが聞こえてきたりして、それは当然落語だけではなく、色物にも詳しくない人たちが多く見受けられる。そのため太神楽の芸に素直に「ほ~っ」と感嘆する声しきりで、演じる方は気分がよかったと察します。いやもちろん、感嘆に見合う芸でしたよ。

 

◆林家つる子 『中村仲蔵』

 熱演。終演後、後ろの席の年配の二人連れの一人が「熱演だね」とほめていた。ただし、熱演だがそれを超える評価が欲しいところ。

 師匠正蔵も、口上のときの玉の輔師も、「芸風が暑苦しい」と言っていた。額が汗でてかてかに光る。古今亭ひな菊のように、髪が濡れそぼり、というところまではいかないが、汗が飛ぶ場面はあった。

 真打なりたての人に過大な要求かもしれないが、もう少しゆとりが欲しいなと思ったのは私だけではあるまいよ。まぁでも、口上の際に玉の輔師が、「桃花なにするものぞ」というセリフをいかにもつる子さん本人が語ったかのように口にしていたが、正にその通り。

 

 
終演後ロビーに挨拶に出て、客と気軽に記念撮影に応じるつる子さん

 

同じくわん丈さん

 

 

 

 

 

 披露興行は初めて。なかなかいいもんですね。つる子、わん丈とも一昨年のNHK新人落語大賞で知ったのがきっかけ。つる子さんはその後何度も生の高座を拝見しているが、わん丈師はその機会がなかった。口上で正蔵師匠が語っていた通り、「いずれは落語協会を背負って立つ噺家になるはずだ」という期待を裏切らないでほしいし、その可能性は十分あるだろう。いやほかの若手真打もたくさんいるから、切磋琢磨して芸を磨いていってほしい。

 

 よい落語会でした。満足して帰途につきましたとさ。