2024年5月12日

 

午前10時の映画祭
”パリ、テキサス”

 

 ヴィム・ヴェンダース監督作品。”パーフェクト・デイズ”に雰囲気が似ている。いかにもヴェンダース監督らしいという印象だった。つまり、結局何が言いたいのということ。

 

映画 “PERFECT DAYS” | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)

 

 

 とはいえ、個人的に思い入れの強い映画であったので、どの場面も見逃すまいと前のめりに見たので、眠くなることも退屈することもなかった。実際には退屈な映画であったのだろうけど。

 

 ハリー・ディーン・スタントン映じる主人公トラヴィスは、前半ほとんど喋らない。それでも存在感抜群で、匂い立つような美しさのナスターシャ・キンスキーとともにこの映画を支える大きな要素となっている。

 

 しかしながら、これもヴェンダース監督らしいと言ったらいいのか、ストーリー展開に合理性が感じられないというのが難点だ。そこが小生感じる「作者の自己満足」という印象を与える理由のような気がする。まぁ原作があるので、ヴェンダース監督の趣味とばかりは言ってられないのだけれど。

 

 前半、4年間消息不明だったトラヴィスがテキサスの片田舎で見つかったという知らせを受けて、弟のウォルトが迎えに行き、自宅のあるロスアンゼルスまで飛行機で帰ろうとすると、トラヴィスがこれを嫌い、車で帰る羽目になる。これぞロードムービー。“レインマン”に展開がそっくりだ。いや、レインマンの方が4年ばかり後の作品だ。

 

 男と女の仲は個別には説明できないものとはいえ、冴えないオタク風の中年男と匂い立つような美人の妻がいっしょになったのはどうも理解しがたい。いや、ひがみもあります。

 

 シングルマザーになったジェーンが、ヒューストンの場末ののぞき窓の女になるというのもなぁ。

 私がヒューストンに赴任したのはこの映画の公開から数年後だった。そのころヒューストンには有名な striptease のバーレストランがあって、その持ち株会社は間もなく株式上場したと記憶している。上場記念パーティはかの店で開催され、日ごろそういう方面とは縁遠い証券会社や銀行あるいは新聞の株式担当記者たちで大変な賑わいであったと聞く。

 

 

 ナスターシャ・キンスキー・・美しい

 

 

 

 この映画に限ったことではないが、鏡に映る人物を映し出すショットでは、カメラを映像に入れない技術というのがよくわからない。今ならあるいはあとから映像処理でカメラを消すこともできるのだろうが、この時代ではどう処理したのだろうか。

 

 

 劇中、トラヴィスが父親を語るところ、父が妻(トラヴィスの母)と、「パリで出会ったんだ・・テキサスの」という場面がある。英語では、"Paris"と言って、少し間を置いて、"Texas"と続けるというところだ。聞く方はほぼ例外なく、パリ・・と言った時点でフランスのパリかと思っていたところへ、テキサスの、と明かすという具合である。

 これが映画のタイトルにもなっているわけだが、さてそれが映画の主題とどう関わってくるのかよくわからない。トラヴィスがパリスを目指した理由が、そこで父と母が初めて愛し合った場所なのだと、つまり自分自身が受精した土地なのだということだと明かされるが、それがどうした、という話だね。

 

 トラヴィスの弟ウォルトの妻アンが、フランス人だという設定もどういう必然性があるのか。物語の展開には全く関係ない。

 

 4年間の失踪中トラヴィスがどうやって生計を立てていたのかも謎。明らかに精神状態に異常をきたしていた彼が、ウォルトの支援があったとはいえ、あっさり正気を取り戻したのも不明。

 

 鏡越しとはいえジェーンと再会を果たし、再び心が通い合ったかと見えたのに、トラヴィスがハンターをジェーンに託してまた放浪に出るというエンディングももやもやする。人生は旅だってか。

 

【キャスト】
◆ハリー・ディーン・スタントン ‐トラヴィス・ヘンダースン(主人公)

◆ナスターシャ・キンスキー : ジェーン・ヘンダースン(トラヴィスの元妻)
◆ディーン・ストックウェル - ウォルト・ヘンダースン(トラヴィスの弟)
◆オーロール・クレマン - アン・ヘンダースン(ウォルトの妻)

◆ハンター・カーソン (脚本のL.M.キット・カーソンの息子) - ハンター・ヘンダースン(トラヴィスの息子 トラヴィス失踪後ウォルト夫妻に引き取られる)

◆エドワード・フェイトン - ハンターの友人

◆ベルンハルト・ヴィッキ - ウルマー医師
◆クラッシー・モビリー - カーレンタル職員
◆ソコロ・ヴァンデス - カメリタ(ウォルト家の家政婦)
◆トム・ファレル - 叫ぶ男
◆ジョン・ルーリー - スレイター(のぞき部屋の黒服)

 

【スタッフ】
◆監督 : ヴィム・ヴェンダース
◆脚本 : L・M・キット・カーソン、サム・シェパード
◆原作・脚色 : サム・シェパード

◆製作総指揮 : アナトール・ドーマン
◆プロデューサー : クリス・ジーヴァニッヒ、ドン・ゲスト
◆翻案 : L・M・キット・カーソン
◆撮影 : ロビー・ミューラー
◆編集 : ペーター・プルツィゴッダ
◆音楽 : ライ・クーダー
 

1984年 アメリカ 147分 (日本公開は1985年9月)

 

 

 エンドロールで、音楽がライ・クーダーとあって、なんか聞いた名前だなと、わけもなく懐かしく感じたことである。


 いずれにしても、前回書いた通り、39年前に見に行った頃の自分の心境やら、その後の生活環境の変化やら、個人的思い入れの強い映画で、郷愁を誘う鑑賞でありました。アメリカ在勤の間、5年を過ごしたヒューストンや、3年暮らしたロスアンゼルスが映画中でふたつの主要なロケーションとして出てきたことも嬉し懐かしい要素である。


 1984年の第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞した理由はよくわからない。カンヌはこういう映画好きだからね。