2024年5月8日

 

 小生生来のひねくれ者ゆえ、世間で常識の如く語られている事柄も疑ってかかる。けっこう自分でもいい着眼だなと思うことがある。ここで縷々述べたところで、世の中の害にも益にもならぬからあえてご披露。

 

「人口減少は大チャンス」

 今の傾向のまま人口減少が続くと、日本の人口は2020年の1億2,615万人から、2070年には8,700万人に減少するんだそうだ(国勢調査(2020年調査)を出発点とした日本の将来人口を国立社会保障・人口問題研究所が推計;2023年5月8日第3回社会保障審議会年金部会 資料3)。

 

 人口が国力の基本のひとつであることは否定しないが、それが全てではなかろう。8,700万人の人口といえば、現在のイランより少し少ないくらいで、他の国の数字が変わらないとすれば世界で17番目にあたる(現在のヨーロッパではロシアを除けばこれを上回る国はなく、ドイツの8,340万人が最大である(2023年5月19日にWHO(世界保健機関)が発表した2023年版の世界保健統計(World Health Statistics)による=2021年の推計値)。WHO加盟国は198か国であるから、17番目というのは順位においても絶対数においても堂々たる人口大国と言ってよかろう。ちなみに現在(つまりこの2021年推計値)の日本の人口1億2,460万人は世界11位である。

 

 国内マーケットが現在より4,000万人近く減少することは大きな痛手とはいえ、ほぼ50年をかけての変化であるから、社会全体がそれに備える時間はあるだろう。

 

 さて、老生が人口減少がチャンスだという理由は何か。

 日本は生産性が低いとよく言われる。日本生産性本部によると、『OECDデータに基づく2022年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、52.3ドル(5,099円)で、OECD加盟38カ国中30位でした。実質ベースで前年から0.8%上昇したものの、順位は1970年以降で最も低くなっています。就業者一人当たり労働生産性は85,329ドル(833万円)で、OECD加盟38カ国中31位となっています。』とのこと。

 

 労働生産性とは、生産量÷就業者数 で求められる。国民ひとりあたりGDPとかなり類似の統計数値だろう。ただし、人口と就業者数はイコールではない。そこに人口動態の要素が加わる。つまり、人口が増えている国は生産性は高めに出るし、その逆もまたしかりである。アメリカと日本がそれぞれの典型と言ってよい。

 

 生産量とは、物的生産だけでなくサービスの対価も含まれる。経済的には当然のことではあるが、さて、サービスの対価というのは、何かを作り出しているわけではない。一説によると、アメリカのGDPの半分は、弁護士やコンサルタント等が生み出しているという話もあり、つまりなくても済むものかもしれないということだ。日本がアメリカのように何でもかんでも訴訟だという社会になってしまうと、GDPはあっという間に倍になるという意味だね。もちろん弁護士やコンサルが不要とまで言うつもりはない。しかし、100年前に弁護士とかコンサルとかいう職業がどれほどの重みがあっただろうか。

 

 そういう社会が「生産性が高い」と言えるのか、という話だ。そういう社会になりたいと思います? やたらハラスメントの種類が増えて、コンプライアンスでがんじがらめになり、有識者会議だの第三者委員会だの社外役員だのが増えるばかりで、その対応に時間がとられて仕事が増えるわりに成果物が少なくありませんか。日本の社会には日本の伝統と歴史があって、それで何の問題もなく2千数百年の間運営されてきたんではないんですかね。

 

 

日本の生きる道は“鎖国”

 生産性が低いということは、「無駄が多い」から効率性を高めなければならない、と外部コンサルタントが指摘したとする。そんなの当たり前ですね。日本はそうやってワークシェアリングを実践してきたわけだから。

 過去30年にわたって経済が成長してこなかったにも関わらず、失業率はどんなに高くても6%に達したことがない。効率を高めるだけなら、どんどん省力化して人を減らしたはずだから、失業率も高くなったはずだ。

 

 経済成長がなかったといっても、物価も上がらなかったから庶民の生活が破綻することはなかった。もちろん経済的恩恵が一部企業や富裕層に集中したという側面はある。しかし、30年も賃金も物価も上がらなかったという事実は、いったいどう解釈すれば合理的なのだろうか。このグローバル経済の世界にあって、日本はまるで鎖国してきたかのようだ。

 

 いや、実は鎖国こそが将来の日本の生きる道なのかもれしれない。「もしトラ」だか「ほぼトラ」だか知らないが、トランプ氏が大統領に返り咲いたとして、再びアメリカファーストを標榜したとしてもこわくはない。日本はすでに日本第一主義を実践してきたのだから。

 

 日本の貿易依存度(GDPに対する貿易依存度)は38.3%(世界163位)に過ぎない(UNCTAD;国連貿易開発会議の統計 2022年)。50年かけて徐々に進めれば江戸時代程度の鎖国は可能だ。韓国のように貿易依存度81.6%では無理だろうが。

 

 人口が減少すれば、ワークシェアの必要は徐々に減じていく。一方でそれこそ「効率化=生産性向上」のモチベーションとなる。ITやAIをさらに大々的に導入する一大契機になるではないか。IT投資に対する優遇措置がどれだけ進んでいるか知らないが、これをもっと拡充すれば経済も活性化する。これこそ人口減少は日本にとっての大チャンスとなるという所以である。カジノ誘致なんぞやってる場合ではありませんぜ。

 

 食料自給率だって今ほど心配しなくてすむかもしれない。社会保障費だって減っていくだろう。明治維新のころの日本の人口は3,000万人くらいであったという。それくらいが食料が自給できる適正人口なのかもしれない。巷間喧伝される日本の食料自給率40%はカロリーベースであるところ、カロリーベースを採用している国は日本だけだ。生産額ベースでは食料自給率は70%となり、大きく印象が異なる(農林水産省は一応両方の数字を発表している)。


 人口減少、どんとこいだよ。

 

 

 ”その2” があるかどうかは保証の限りではない。いや、誰も期待してないか。