2024年3月11日

 

映画 『落下の解剖学』

 

いやこれは面白かった。
 

 

【あらすじ】(Wikipediaより)

 人里離れた雪積もるフランスの山荘で1人の男が不可解な転落死をし、ドイツ人作家の妻サンドラが殺人容疑で逮捕される。裁判では、サンドラと夫との確執や、死の前日の激しい言い争いも暴露される。そこで彼女は、現場にいた11歳の盲目の息子ダニエルを唯一の証人として迎え、自らの無実を証明しようとする――。

 

 

主演の二人、と言っていいのだろう。左がサンドラを演じたザンドラ・ヒュラー、右がレンツィ弁護士役のスワン・アルロー。アルローはちょっと佐々木蔵之介に雰囲気が似ていた。

 

 

 

 後半は法廷ドラマの色彩が濃いが、サスペンスであり、人間ドラマでありミステリでもある。法廷でのやりとりを始めとして、二人芝居でのセリフの闘いの場面が多用されていて、舞台芝居を見るような感覚だった。

 俳優は、主演のザンドラ・ヒュラーはもとより犬のスヌープに至るまで、一人一人の演技が粒だっていて、それでいてお互いに干渉しあわない調和のとれた姿は、演出の妙か脚本の勝利か。

 劇中でドラマの一部として流れる音楽以外に、エンディングまでいっさい背景音楽がない。こういうの好きだな。音楽賞でも受賞すれば当今のうるさい映画に対する皮肉になるのに、さすがにそこまで性格の悪い批評家はいなかったようだ。

 

 映像も、自己満足の不自然なアングルや奇妙な切り取りを排し、ごくノーマルな視線での画で好感が持てた。逆に、これはよくぞ残したという、普通なら失敗映像と言うべき構図もピントも常識外の画があったことも印象深い。

 

 

 

 

 主人公は英語を話すドイツ人で、フランス語を話そうと努力しているベストセラー作家という設定であった。フランスに移住する前はロンドンにいたというから、作品は英語で発表していたということだろうか。

 法廷でのフランス語のやりとりに行き詰まり、英語で語り始めた主人公。言語を理由に詳細な陳述を回避したという意味を含んでいるのか。

 

 物語の中の裁判ではサンドラは無罪となるが、ほんとうに無実であったかどうかは判然としない。状況証拠だけで本人の自白もない。結局刑事裁判の「疑わしきは被告人の利益に」という原則に従ったのだろうか。逆にこれ検察がよく起訴したものだという印象が強い。

 ミステリに解が出ないことで、カタルシスを得られないという恨みは残るが、それこそが原作者(脚本家)のねらいであったのだろう。よくできた映画でした。ノベライズ本出ないかな。

 

 

今回のアカデミー賞脚本賞受賞;ジュスティーヌ・トリエ(右)とアルチュール・アラリ(左)。二人は実生活でもパートナーである。

 上記の通り、音楽にたよらずすべてをセリフでつないでいく運びがみごと。

 

 

【キャスト】

◆サンドラ(主人公;作家):ザンドラ・ヒュラー
◆ヴァンサン・レンツィ弁護士:スワン・アルロー
◆ダニエル(主人公の息子、事故が原因で視覚障害を持つ):ミロ・マシャド・グラネール
◆検事 :アントワーヌ・レナルツ
◆サミュエル(主人公の夫、冒頭転落死する):サミュエル・タイス
◆マージ・ベルジェ(ダニエルの保護官):ジェニー・ベス
◆ヌール・ブダウド弁護士:Saadia Bentaïeb
◆裁判長:Anne Rotger
◆モニカ(主人公宅の家政婦):ソフィ・フィリエール

 

【スタッフ】

◆監督 :ジュスティーヌ・トリエ
◆脚本 :ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
◆製作 :マリー=アンジュ・ルシアーニ、ダヴィド・ティオン

◆撮影 :シモン・ボーフィス
◆美術 :エマニュエル・デュプレ
 

 

主演のザンドラ・ヒュラーは、今回のアカデミー賞外国映画賞にノミネートされた『関心領域』の主演女優でもある。同作品はまだ日本では公開されていない。見に行かねば。