2024年3月2日
午前10時の映画劇場
4Kデジタル修復版
”海の上のピアニスト“
【映画.COMによる解説】
「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督と映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネがタッグを組み、船上で生まれ育ち一度も船を降りることがなかったピアニストの生涯を描いたドラマ。1900年。豪華客船ヴァージニアン号の機関士ダニーは、ダンスホールのピアノの上に置き去りにされた赤ん坊を見つけ、その子に「ナインティーン・ハンドレッド」と名付けて育て始める。船という揺りかごですくすくと成長したナインティーン・ハンドレッド。ある晩、乗客たちは世にも美しいピアノの旋律を耳にする。ダンスホールのピアノに座って弾いていたのは、ナインティーン・ハンドレッドだった。日本では1999年に劇場初公開。約20年を経た2020年、トルナトーレ監督の監修による4Kデジタル修復版(121分)が公開。
下の写真は当初公開時のポスター
1998年(日本公開は1999年)のオリジナルを見たつもりだったが、見終わって、これは初めてだなと。タイトルを”船上のピアニスト“と勘違いして、“戦場のピアニスト”と混乱したか・・て、駄洒落かましてる場合ではないね。
いやこれは秀作でした。ファンタジーであり、ロマンスでもあり、音楽映画でもある。
レコーディング中に窓の外に少女の姿を見て、心奪われるシーンは美しかった。涙を誘うほどであった。
個人的に若干興醒めだったのは、その後この少女が船を降りる時に、主人公のナインティーンハンドレッドが少女に話しかけ、お父さんに会ったことがあると語る中に彼の胸中をのぞかせる場面、これ、必要だっただろうか。あのままナインティーンは少女と話をする機会もなく船の上で一生を終えるという結末もありだったかもしれない。
映画紹介の中では、必ず『美しい少女』と言及されるのだが、ストーリー展開上それは必然であるとしても、率直に言ってあの女優は、目と目が離れ過ぎていて、唇はぽってり、標準的な美人という訳ではない。もちろんなんとも言えない魅力をたたえたチャーミングな容貌であることは認める。
映画演出上は、非の打ちどころのない美女が登場したうえで、上記の通り二人の間には何もコミュニケーションはなかったという設定の方が、余韻が深い気が致します。
まぁでもこの映画は、ミステリっぽい要素も孕んでいるので、美少女の存在をミステリアスに描いて焦点が分散することを避けたのかもしれない。
さすがに音楽は美しかった。エンニオ・モリコーネは数えきれないくらいの映画音楽を担当している。この作品ではイタリア映画最高の名誉と言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀音楽賞を受賞しているが、それ以外のメジャーな映画賞はゴールデングローブ賞最優秀作曲賞受賞だけで、他の賞にはノミネートすらされていないのは意外なことだ。
モリコーネが音楽を担当した映画で私が見たのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『アンタッチャブル』、『ザ・シークレットサービス』くらいでごく少ない。言われて見れば前二者の音楽は雰囲気が似ているような気がしなくもない。『海の上のピアニスト』も含めて時代設定はほぼ共通しておりますな。印象的な音楽で、私は好きだな。
下の写真がその「美しい少女」役のメラニー・ティエリー
これは今回4Kデジタル修復版のポスター
オリジナルの左右反転・・ではないよね
【キャスト】
◆1900(主人公のピアニスト); ティム・ロス
◆マックス(この物語の語り部); プルイット・テイラー・ヴィンス
◆少女; メラニー・ティエリー
◆ダニー(主人公の育ての親); ビル・ナン
◆ジェリー・ロール・モートン(ジャズの「発明者」、主人公とピアノ演奏対決をする 実在の人物だそう); クラレンス・ウィリアムズ3世
◆店主; ピーター・ヴォー
【スタッフ】
◆監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
◆脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ
◆原作 アレッサンドロ・バリッコ『Novecento. Un monologo』=1900.独白
◆製作 フランチェスコ・トルナトーレ
◆ナレーター プルイット・テイラー・ヴィンス
◆音楽 エンニオ・モリコーネ
映画原題 ”La leggenda del pianista sull'oceano” 英語版 ”The Legend of 1900”
公開 イタリア 1998年10月28日 日本 1999年12月18日
上映時間 イタリア版オリジナル 170分 日本版 121分
アメリカ・イタリア合作とされるようだが(121分のアメリカ公開版(ファイン・ライン版)が日本でも上映された)基本イタリア映画だろう。日本公開版はファイン・ラインバージョンでセリフは全編英語である。
主人公の愛称を字幕でそのままナインティーンハンドレッドないしナインティーンと表記していたものの、これはニュアンス的には「1900年」または「せんきゅうひゃく」という感じではなかろうか。原作の”Novecento”(ノヴェチェント)も1900をアラビア数字ではなく文字表記した言葉であり、やはり日本語で言えば「せんきゅうひゃく」がふさわしいと思うのですよ。
オリジナル公開時のポスターに「大西洋の上で生まれ、一度も船を下りなかったピアニストの伝説」、リマスター版は「海の上で生まれ、生涯一度も船を下りなかったピアニストの伝説」と、『伝説』を強調している。あたかも事実にもとづく物語かのような表現だが、どうやらこれは架空の話らしい。
原作小説には「伝説」という言葉は入っていない。映画原題のイタリア版は ”La leggenda del pianista sull'oceano” で英語版は ”The Legend of 1900” というわけでいずれも「伝説」とあるのでこれに引っ張られたのだろう。
主人公とピアノバトルを行うジェリー・ロール・モートンは実在の人物だし、主人公が生涯を過ごす豪華客船ヴァージニアン号も、映画設定の時代に実在した船の名前であるらしい。物語にリアリティを増すエッセンスみたいなものかな。
冒頭触れた『戦場のピアニスト』は史実にもとづく話だそうで、その影響もあると思いますぜ。