2024年2月6日

 

映画『蜘蛛巣城』

 NHK BSで見た。

 ポスターはカラー写真だが、この時代の黒澤明監督作品であるからもちろんモノクロームである。

 

 黒澤作品では『羅生門』など音楽がうるさいなと思ったが、この映画はこの時代にしてはずいぶん抑制した使い方だという印象である。ストーリーを邪魔しない、あるいはよりドラマを盛り上げる、効果的な挿入だったと感じたことである。

 

 映像も『羅生門』は古いせいもあるとはいえ暗くて陰鬱で、『蜘蛛巣城』の方が神秘的なところもあり、美術の村木与四郎が毎日映画コンクールで美術賞、ブルーリボン賞の技術賞、日本映画技術賞の美術で受賞しているのはさもありなんと。

 

 

 

 山田五十鈴の存在感は際立っていた。さすが女優初の文化勲章受賞者でありますね。この時39歳。今で言えば綾瀬はるかや長澤まさみより1~2歳程度年長に過ぎない。貫禄が違いますな。

 この演技でキネマ旬報ベストテンの女優賞、芸術選奨の文部大臣賞を受賞している。

 

 

 

 なんとこの場面は、弓道の有段者(大学の弓道部員との説も)が実際に矢を放ったのだという。もちろん遠近法を駆使して撮影しているので、実際には三船と矢の距離は見た目よりはあるとはいえ、この恐怖の表情は演技だけのものではない。

 撮影後に、憤懣やる方ない三船が散弾銃を抱えて黒澤の自宅に押しかけたというエピソードが伝えられている。

 

 

 

 三船敏郎は何を演じても三船敏郎だが、この役ははまっていた。『羅生門』ではやたら怒鳴り散らすようなセリフ回しが実に耳障りで、しかもそれが志村喬にも京マチ子にも伝染して、いったいどういう意図の演出かと訝しく思った。

 この作品では、剛気なようで実は迷信深く依頼心の強い武将の、心の揺れをよく表現していた。

 毎日映画コンクールの男優主演賞を受賞。逆に、賞がこれひとつというのは寂しい。この年は他にもっといい演技をした俳優がいたということなのか。

 

 


 1957年の作品だからもちろんリアルタイムでは見てない。今まで黒澤明作品をそれほどたくさん見たわけではない。たぶん『羅生門』を初めて見た時、期待ほどではなかったのでその後他作品を見る気が失せたのだと思う。その割に『羅生門』は3回は見たかな。

 

 正直に言って黒澤作品では『天国と地獄』くらいしか面白いと思ったことがない。

 この映画はそういう意味では面白かった方だ。『羅生門』の評価がやたら高いのが不思議でならない。この『蜘蛛巣城』の方が、『マクベス』を原作としているだけに、欧米人にはわかりやすいのではなかったか。俳優の演技や音楽にしても『羅生門』の演出過剰に比べればはるかに好ましい。

 

 結局海外での評価を必要以上にありがたがる日本人が、『羅生門』すごい、黒澤明すごい、と無批判に崇め奉っているような気がしてならない。

 

【キャスト】

◆鷲津武時:三船敏郎
◆浅茅:山田五十鈴
◆小田倉則安:志村喬
◆三木義照:久保明
◆都築国丸:太刀川洋一
◆三木義明:千秋実
◆都築国春:佐々木孝丸
◆物の怪の妖婆:浪花千栄子
◆幻の武者A:木村功(特別出演)
◆幻の武者B:宮口精二(特別出演)
◆幻の武者C:中村伸郎(特別出演)

 

【スタッフ】

◆監督:黒澤明
◆製作:黒澤明、本木荘二郎
◆脚本:小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明
◆原作:ウィリアム・シェイクスピア(『マクベス』より)
◆撮影:中井朝一
◆美術:村木与四郎
◆音楽:佐藤勝
 

1957年 110分