2024年2月1日

 

 奇っ怪な映画でしたねー。
 ファンタジーなのか社会派SFなのか、私には判然としなかった。

 

 ヴィクトリア朝と思しき時代設定かと思いきや、空を飛ぶ交通機関らしきものが行き交っている。クイーンのフラッシュゴードンのMVの雰囲気。

 

 それほど見たいと思っていたわけではなくて、ゴールデングローブ賞とかアカデミー賞の対象になっていると聞いて興味を覚えたというのが本音。

 

 ちょいとグロい映像もあり、あと最近はR18指定すればボカしは入れないんだね。いや、ない方がスッキリしてる。男性器もPーhairももろに映っていたがあれで劣情を催すやつはおらんやろ。そういう映画じゃないし。

 

 

 いつものことながらわたしの意識が低いせいで、この映画からの教訓をよく読み取れない。

 フェミニズムの観点から見れば、女性の誕生と覚醒の物語ということになるのだろうか。

 

 ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ。」という言葉が思い出される。とするとさしづめこの映画の主人公ベラは、女になる前に人間として目ざめたということになるのだろう。

 

 エマ・ストーン熱演だがどうしても無垢な時期の印象が強くて、猛烈なスピードで知性を発達させた後は、却って存在感が薄れるというのは私が悪しき男権主義に凝り固まっている証拠なのか。だとしたら我ながら情けないことだ。自分ではそういうつもりはないのだけれど。

 

 思うにこれは、主人公の成長過程における知的欲求とセクシャリティの追求を並列させたことに原因があるような気がする。一部に性的表現が生々しすぎるという評判があるようで、そのインパクトが強い分、見る側の関心がそちらへ流れてしまったのではないかと思うのだよ。いやそりゃお前だけだろうと言われれば、はいスケベですみませんとしか答えられないけど。だが、作る側に、エンタテインメントの一要素として性的表現を利用した部分はゼロではないだろう。

 

 最後にブレシントンに羊の脳を移植した場面で終わった。その直前に羊が一瞬映ったので予想はついたのだが、ゴッドを蘇らせるという大団円もありかなと思った。

 

 

 ベラの創造主?ゴドウィン(ゴッド)を演じたウィレム・デフォー。ウィレムとはオランダ風の愛称ながら、彼自身はオランダに縁もゆかりもないそう。本名は当然ウィリアムで、愛称ウィレムというのは訳が分からない。

 私が覚えているのは”スピード2”(1997年)の悪役ガイガー、”スパイダーマン”(2002年)のマッドサイエンティスト グリーン・ゴブリンくらいしかないが、味わい深い俳優でありますね。他にも”プラトゥーン”(1986年)、”今そこにある危機”(1994年)、”オリエント急行殺人事件”(2017年)も見ているのにとんと記憶にない。あの個性的な容貌であるから見れば一瞬で思い出すだろうけど。

 

 私が見た中で一番最近では、2018年(日本公開は2019年)の”永遠の門 ゴッホの見た未来”のゴッホ役での熱演が印象深い。ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞している。ただ、そういう評価はともかく、37歳で亡くなったゴッホを、当時63歳のデフォーが演じるのはちと厳しかったぞ。さる映画評に「不自然さはない」とのコメントを見つけた時、じゃぁ芥川龍之介(没年35歳)の役があったとして、松重豊(現在61歳)にやらせますかって訊きたかった。え、いや案外いけるかも。

フィンセント・ファン・ゴッホにまつわる個人的感傷 | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)

 

 エマ・ストーン熱演でした。よーやるわという感じすらある。”ラ・ラ・ランド”(2016年)の演技でアカデミー主演女優賞を受賞しており、その後も多数ノミネート歴あり、キャリアは確立している。その彼女が、かなりきわどい役柄に体当たり演技で挑んだという図式だろうか、度胸も十分、今後が楽しみである。

 

 

【キャスト】

エマ・ストーン – ベラ・バクスター / ヴィクトリア・ブレシントン
マーク・ラファロ – ダンカン・ウェダバーン
ウィレム・デフォー – ゴドウィン・バクスター(通称:ゴッド)
ラミー・ユセフ– マックス・マッキャンドルス
クリストファー・アボット – アルフィー・ブレシントン
キャサリン・ハンター – スワイニー
ジェロッド・カーマイケル – ハリー・アストレー
マーガレット・クアリー – フェリシティ
スージー・ベンバ – トワネット

 

【スタッフ】

監督    ヨルゴス・ランティモス
脚本    トニー・マクナマラ
原作    アラスター・グレイ『哀れなるものたち』
製作    エド・ギニー、アンドリュー・ロウ、ヨルゴス・ランティモス、エマ・ストーン
製作総指揮    オリー・マッデン、ダニエル・バトセック

2023年 イギリス、アメリカ、アイルランド合作

141分



 さて、この物語で「哀れなるものたち」とは誰のことを、あるいは何のことを言っているのだろう。