2024年2月5日


池袋演芸場 令和6年2月上席 昼の部



 この日は東京に大雪警報が出た日で、実際に8センチ程度の積雪があった。昼の部だけで帰ったので特に混乱はなかったものの、まぁそのせいか客席の入りは半分程度。池袋演芸場は他の定席に比べると入りが悪い。しかもだいたい客席の食いつきも悪い。この日も何人かが、「こんなに盛り上がらないのは初めて」と言った意味のぼやきをもらしていた。芸人さんにとってはやりにくい小屋だろうと同情する。

 

◆前座 柳家小じか 『道灌』

 小せん師の弟子。この人を見るのは3度目かな。そこそここなすのだが華が足りない。

 年齢の割に頭頂部が禿げ上がっており、以前からスキンヘッドにした方がいいと思っていた。この日は脇と後に残った髪を伸ばしてちょんまげにしていた。それもありかも。

 メガネはとったほうがいいような気がする。立川志らく師はテレビ出演ではメガネをかけているが、高座ではメガネをとる。メガネをかけている有名落語家は、春風亭昇太師、春風亭昇也師、上方で桂文珍師、故人では橘家円蔵(私には月の家圓鏡の方がなじみが深い)、先代三遊亭圓歌、三遊亭円丈といったあたり。小じかさんがその域に達するまで私は生きてないな、残念だけど。

 

◆古今亭菊正 『間抜け泥』

 なかなかのイケメンと思ったらロシア人の父を持つハーフだそう。この日の中トリ(仲入り前)の桃月庵白酒師が、「落語家なんかになるのはバカばっかりなんですが、最近は東大出て落語家になるなんていう、大バカもいるようです。」と言ったのは、この菊正さんのことだと今知った。春風亭昇吉師が東大卒初の落語家だとは知っていたのだけど。

 もっとすごいのはイエール大学を出た立川志の春師。これも白酒師が言及していたか。そういう白酒師だって早稲田大学だよ、中退だけど。

 

◆古今亭志ん雀 『強情灸』

 元気があってよろしい。熱演でしたね。この人も早稲田大学第一文学部卒。

 

◆立花家あまね 民謡

 3度目か4度目くらいかな。まだ高座デビューして1年3か月くらい。「あまね」は本名だそう。初めは師匠の立花家橘之助さんとデュオで出ていたが、だいぶ一人の高座が馴染んできた。

 

◆春風亭百栄 『寿司屋水滸伝』

 この人独特の怪しさがあっておもしろい。古典を演じるところは見たことがないが、新作は似合っているように感じる。この日の『寿司屋水滸伝』は喬太郎師の作だそう。ご本人のを見てみたい。

 

◆古今亭圓菊 『熊の皮』

 親子二代の圓菊。最近は落語家も世襲が増えた。小さん、木久蔵、正蔵と三平、花禄、春蝶、米團治、王楽、三木助等々。

 当代圓菊師を聴くのは2度目か。先代を知らないので比べようもないが、品よくまとまりすぎているような気がする。

 

◆寒空はだか 漫談

 この芸名はおめでたい席には呼ばれない、と自分で語っていた。

 漫談て最近はあまり見ない。この人も初めて見た。なかなかむずかしい芸だね。

 

◆柳家さん喬 『天狗裁き』

 雲助師が人間国宝の認定を受けた時、香盤上は上位にあるさん喬師の心境やいかに、なんていうおせっかいをみかけた。実際どうなんでしょうね。

 よけいな力が全く入ってないのに、演じるクキャラクターにはそれぞれの個性と迫力がみなぎっている。雲助師と趣は異なり、どちらがいいと言われると好みの違いしか理由がない。

 お二人とも後進の指導にも精力的であり、どういう理由で雲助師が無形重要文化財に認定されたのか、こういうのはロビイングなんてあるんでしょうか。ゲスの勘繰りはやめておきましょう。

 

◆春風亭一之輔 『人形買い』

 白酒師とともに、上野鈴本をこなしてから移動してきたのだったか。意外に早い出番は次の予定が入っていると思われる。割合客の入りを気にされる方のようで、いつも言及がある。この日はさん喬、一之輔、白酒、小せん、菊之丞という名前がそろいながら半分強の入りで、一之輔師も微妙な反応だった。

 高座はいつも通り客席をがっちりつかんで一体感がやっと出た。さすが。

 

◆ホンキートンク 漫才

 名前はずっと前から知っていたが、実見は初めて。漫才協会の四天王の一角と聞くが、ちょっと・・(ちなみに他の三組はナイツ、宮田陽・昇、ロケット団で、これは文句がない)。

 

◆桃月庵白酒 『粗忽長屋』

 相変わらず飄々と、しかし冷静に計算された高座は風格を感じさせる。この噺も色々な落語家で聴いたが、圧巻でありますね。

 

ー仲入りー

 

◆柳亭こみち『あくび指南 女版』

 この方も初めて。よく練られたアレンジで、噺を自分のものにしている。「女版」と言いながら落語はずいぶん男前な雰囲気。同じ女流でも蝶花楼桃花師とも林家つる子さんとも違う。立川小春志師が近いか、いや、こみち師の方がずっとキャリアは古い。またぜひ拝見したいと思わせた。

 

◆柳家小せん『善光寺』 

 講談の神田茜先生か落語の白鳥師匠が交替で顔づけされていたが、お二人は休演で小せん師の代演。いやこの方が見られるのなら代演歓迎。

 

◆アサダ二世 マジック

 まあいつも同じネタだけど、予定調和というか安心していられる。いつまでも元気で高座に出ていただきたい。

 

◆古今亭菊之丞『法事の茶』

 これは昨年古今亭一門会(新宿末廣亭)で聴いた(見た)ネタ。茶をほうじてその湯煙とともに思い浮かべた人物が現れるという趣向。今日は歌舞伎の六代目歌右衛門から始まって、以下はすべて落語家の大師匠たち。八代目桂文楽、六代目三遊亭圓生、八代目林家正蔵(彦六)、現役の柳家さん喬、五街道雲助、最後は立川談志という面々。

 現役のお二人とごく最近の談志はともかく、文楽、円生、正蔵という昭和の名人たちを、菊之丞師が直接見たことはないはずだ(正蔵は微妙)。没年は文楽1971年、円生1979年、正蔵1982年であり、菊之丞師は1972年生まれである。となると、おそらくDVD等のデータで見たものを形態模写したということになろう。

 客席の年齢層は高かったとはいえ、それでもリアルタイムでなじみがあるかどうかは疑問。現役の雲助師、さん喬師のあたりでは受けていたが、昭和の師匠はちょっと難問だったような気がする。

 

 上方落語の、米朝一門のエース格だった吉朝が、「地獄八景亡者戯」の中で、亡くなった師匠連の形態模写を見せていたのを一度だけなにかで見たことがある。菊之丞師には悪いが、吉朝の芸が圧倒的にクールである。残念ながら吉朝のこの噺は映像データが商品化されていない。どこかにあるとは聞いているので死ぬまでにもう一度見てみたい。