2024年1月19日

 

 寄席は1月20日までが正月である。この日は正に満員大入。

 トリの春風亭一之輔が目当てという客も多かったとはいえ、顔づけは有名どころが揃い、正月らしい華やかな舞台であった。



 

◆前座 三遊亭東村山 『平林』

 この人の噺の途中で入場。3~4度目になるか。以前から思うに、うまいわけではないが印象に残る。定席では前座の出番ではくすりとも笑いが起こらないことが多い。ところがけっこう受けていたから大したものだ。そういう意味では有望かもしれない。

 

◆古今亭始 『宮戸川』

 9月下席より真打昇進が決まっており、お披露目興行中。初めて聴いたがなかなか洗練されている印象。ただ、これと言って突き抜けたところがない。個性をどう発揮するか、という前の段階、つまり何が個性なのか、と訊いてみたい。

 

◆伊藤夢葉 奇術

 寄席のマジックの方はみな、芸も話術もこなれていて感心する。

 

◆蝶花楼桃花 『こうもり』

 この人を生で見るのは何回目か。ここ2回ほど寄席ではなくホール落語で聴き、やや停滞感を覚えたのだが、今日は持ち前の華やかさが存分に出ていて、口調も滑らか、運びは上々、個人的には満足の高座でしたよ。

 

◆林家正蔵 『紋三郎稲荷』

 正蔵の大名跡を継いですっかり大御所の雰囲気だが、うまい噺家と感じたことがない。

 

◆林家楽一 紙切り

 あいさつ代わりに横綱土俵入りを切って見せ、その後客席のリクエストに応じて“正月”と“誕生日”を。この方を見るのは初めてだった。他の紙切りの師匠方と比べて切るのが格段に速い。その分もちろん細かくはない。だが、出来栄えは客席の「ほーっ」という声が証明している。“誕生日”はリクエストした女性を舞台近くへ呼び寄せ、横顔を見ながらあっという間に切ってみせた。お見事。

 件の女性は、「今日が誕生日だったので勇気を出してリクエストしました。ありがとうございました」と感激していた。

 

◆柳家はん治 『妻の旅行』

 これはたぶん桂三枝(現6代目文枝)の創作落語かと。口調に若干の癖があり、私は個人的に好きなタイプではない。ごめんなさい。

 噺の方も落語としての完成度に疑問あり。文枝師匠の創作落語は『ゴルフ夜明け前』『読書の時間』くらいしか聞いたことがない。あまり感心しませんでしたね。

 

◆桃月庵白酒 『茗荷宿』

 余計な力が全く入ってない、自由自在の運び。いつも気になるセリフを噛むこともほとんどなく、上々の首尾であった。満足。

 

◆ニックス 漫才

 ものすごくパンチが利いたという感じではないが、ゆる~い雰囲気は嫌いじゃない。

 

◆入船亭扇辰 『紫檀楼古木』

 私この師匠好きですね。細身ながら凜とした佇まいで貫禄がある。59歳という割に少し老けていると見えなくもないが、それはそれでまた老成した雰囲気を増している。この後に出てきた彦いち師と、二つ目、真打の昇進が同時。

 弟子の扇橋も私好きだな。師弟ともども応援していきたい。

 

ー仲入りー

 

◆太神楽曲芸 翁家社中

 こういう芸は普段見る機会はほとんどないが、日本にどれだけの数の方が継承しているのか。いとも優雅にこなしているように見えるが、大変な努力を重ねておられるのだろうということくらいは私でもわかる。 

 

◆柳家三三 『筍』

 飄々と余裕かまして話すという態で、軽~くこなしているが味わい深い。好きだな。文句なし。

 

◆林家彦いち 

 本人による新作落語。タイトルは不明。鹿児島の離島から上京して大学に入った安田少年(本人)の逸話。ほぼ事実に基づく噺のようだ。思い出話を語るがごとくで、落語と言えるのか疑問。新作落語の大家?らしいが、三遊亭白鳥師と比較すると噺の完成度、話術とも私は白鳥師に1票。

 

◆江戸家猫八 ものまね

 江戸家の伝統芸、動物ものまね。おじいさんのころから知っているので、あの人の孫がこんなに立派になって、という感慨を覚える。芸、話術はさすが江戸家の惣領。

 

◆春風亭一之輔 『短命』

 この方も飄々と力が入っていないように話す。ここまで完成するには相当の年季が必要であったはず。さすがに今日の演者の中で一番客席が沸いた。当然といえば当然か。




 

 この日は私の推しの白酒、三三、一之輔の三師匠がそろい踏み(もちろんそれを狙って来た)。時間前からかなりの行列ができていた。くわえて現在の女流では人気No.1であろう桃花さんも顔づけされていたから、満員の客も満足して帰ったに違いない。

 

 この顔ぶれで4時間近く楽しめて3,000円て、寄席ってかなりコスパのいいエンターテインメントであるね。