2023年10月29日

”岡本誠司 ヴァイオリン・リサイタル”
(佐倉ハーモニーホール)

 

ヴァイオリン;岡本誠司

ピアノ;高木竜馬

 

 

【プログラム】

◆ラヴェル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ短調”遺作”

◆ラヴェル:ハバネラ形式の小品

◆ラヴェル:ガブリエル・フォーレの名による子守歌

◆ラヴェル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調

 ーInteremissionー

◆ブラームス(ヨアヒム編):ハンガリー舞曲第5番

◆サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

◆クライスラー:ラ・ヒターナ

◆バルトーク・ヴァイオリンとピアノのためのラプソディ第1番 Sz.86 BB88

◆ラヴェル:演奏会用狂詩曲”ツィガーヌ”
 

(アンコール)

◆モンティ:チャールダーシュ


 岡本誠司さんのコンサート/リサイタルは今年3度目。

 

 しかし、これは『岡本誠司 ヴァイオリン・リサイタル』というタイトルが間違っている。

 若手実力派アーティスト二人の競演である。

 曲目からして、「ヴァイオリンとピアノのための~」と冠された曲が3つを占め、その他の曲もピアノの存在感を発揮できるように編曲されたものである。高木さんのピアノの存在感は存分に発揮されており、最初の曲ではピアノの主張が強いと感じたほどだった。

 

 これは岡本誠司さんのネームヴァリューが高いという意味なのだろうか、いや、高木竜馬さんだってソロリサイタルを活発に行っており、その活動は岡本さんに負けてないはずだ。

 

 前半のラヴェル尽くしでは、私のような素人が聴くと不協を感じるようなメロディが、やがて岡本さんの歌うような泣くような音色に染まっていく。アヴァンギャルドでありながら抒情を感じさせる、これをラヴェルらしいと言ったら「何を素人がわかったようなことを」と笑われるだろうけれど。

 

 後半はブラームス、サラサーテのあまりにポピュラーな名曲を続けた後、クライスラーの”ラ・ヒターナ”(スペイン語で「ロマの女」という意味)を挟んで、バルトークのラプソディから再びラヴェルの”ツイガーヌ”(フランス語で「ロマ」)でクライマックスを迎える。

 

 ブラームスの”ハンガリー舞曲”は言うまでもなくハンガリー旅行中にロマ音楽に想を得て、一部実在の民謡も引用して造った曲。

 

 サラサーテのツィゴイネルワイゼンもドイツ語で「ロマ風」という意味であり、この日の音楽会のテーマがロマ音楽に影響を受けた楽曲たちということが明白である。

 

 そして、バルトークのラプソディは一説によればラヴェルの”ツィガーヌ”に対するアンサーソングであるとの解釈があり、ここにラヴェルで始まりラヴェルで終わる演奏会の大団円を迎えるのである。

 

 この日の選曲は岡本さんが全て決めたそうで、プログラムの解説文も岡本さんの手になる。トークも達者だが文章もこなれていて、最近の若いアーティストは音楽演奏以外の部分でも才気がほとばしっている。

 

 

 高木さんは千葉市、岡本さんは市川市の出身ということで、この日はいわば地元での演奏になる。かねて親交はあったがデュオリサイタルはなかなか機会がなかったという。

 

 岡本さんは、反田恭平氏のJapan National Orchestra でコンサートマスターを務めている。反田さんと先ごろ第一子を出産した小林愛実夫人は幼馴染。反田さんと、2021年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで3位に入賞したピアノの務川慧悟さんは、2019年からの2台ピアノツアーのパートナーを務めた。反田さんのショパン国際ピアノコンクール(2021年10月)の際は練習相手、アドヴァイザーとして反田さんを支えた由。務川さんと同時にエリザベートで4位入賞した阪田知樹さんはいずれも愛知出身の同郷。さらに若手有望指揮者の出口大地さんも務川さんと留学仲間らしい。この世代の若き音楽家たちは親しい関係が多く、同世代のアーティストで切磋琢磨して取り組んでいる姿はまことにたのもしい。

 

 みなさん血のにじむような努力を重ねておられるだろうが、そんなことは露ほども感じさせず、さわやかに明るく演奏を聴かせてくれる。

 

 全く、今どきの若い連中は・・すごい。

 

本日のコンサート 岡本誠司Vn. 務川彗悟Pf | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)