2023年9月21日
アガサ・クリスティ原作の名探偵ポアロシリーズの第三弾。
正確には、サー・ケネス・ブラナー監督・主演によるポアロシリーズの第三弾ということになる。
前作の『オリエント急行殺人事件』、『ナイル殺人事件』を見たものだから、これも見なきゃいけない気分になって見てしまった。
シェークスピアの “ベニスの商人” を今さら言い換えることはないだろうけど、今はベニスよりもベネチアの方が一般的なんだろう。固有名詞は現地語に近い表記をするのが公の流儀だということでベネチア。ヴェネツィアの方がもっと近いけれど。フィレンツェもフロレンスなんて言われたくないわな。
それはともかく、最近はなんでも英語読みが優先される傾向があるのは愉快でない。この映画とは全く関係はないが、最近複数の美術館で “ジョアン・ミロ” という表記を見て疑問に思った。従来からこれはスペイン語読み(原語発音)の “ホアン・ミロ” と読まれてきたはずだ。わざわざ英語読みにするのはいかなる理由からか。ピカソを “パイキャッソ”(英語読み)とは言わんだろう。
閑話休題。
毎回思うのだが、ポアロのぽんこつぶりはどういう意図なんでしょう。片っ端から容疑者扱いにして、次々に除外されていく。前作ではどんどん容疑者が殺害されていったのではなかったか。原作がそうなってるのならしょうがないが、これはあるいはコメディタッチをねらっているのかね。まるで名探偵コナンの毛利小五郎のような役回りではないか。
推理小説は必ず人が死ぬので好きではない、とは4年前に他界した父の言葉である。ミステリファンとは言えない私であるから、殺人事件の登場しない推理小説があるのかどうかの議論はやめておく。
この映画でも複数の殺害が起きる。それがホラー要素強めで、かつ安っぽい演出なので映画の深みを減じている。突然鳴り響く過剰な効果音、いかにもお化け屋敷的な幻影の出現や超常現象も感心しないが、その伏線の回収がいかにも安直でがっかりだ。
そもそも原作の設定を変えてまで舞台をベニスに持ってきたわりに、ベニスの風景の描写がほとんどない。『オリエント急行殺人事件』でも『ナイル殺人事件』でも、もう少し観光気分はあったと思うぞ。
霊能力者役のミシェル・ヨーの存在感はさすがだったが、この役あるいはその助手二人が登場する必然性がようわからん。サー・ケネス・ブラナー自身もプロデューサーとして参加しており、さらにリドリー・スコット監督も製作者に名前を連ねている。脚本に意見を出す立場だったかどうかは知らないが、原作に改変を加えすぎなんではないかしらん。
ミシェル・ヨー
あのエブエブよりずっとよかった。
【キャスト】
◆エルキュール・ポアロ:サー・ケネス・ブラナー
世界一の名探偵。現在は引退し、ベネチアで隠遁生活を送っている(という設定)。旧友オリヴァに頼まれたことでロウィーナ・ドレイクの屋敷のハロウィン・パーティおよび降霊会に訪れる。
◆アリアドニ・オリヴァ:ティナ・フェイ
ポアロの旧友でミステリー小説作家。
◆ロウィーナ・ドレイク:ケリー・ライリー
元・オペラ歌手で屋敷の持ち主。娘のアリシアを亡くしている。娘の霊と対話するために、レイノルズに降霊会を依頼する。
◆アリシア・ドレイク:ローワン・ロビンソン
ロウィーナの娘。屋敷のバルコニーから落下して死亡し、警察は自殺と判断した。
◆マキシム・ジェラード:カイル・アレン
若きシェフ。かつてアリシアと婚約していた過去を持つ。
◆オルガ・セミノフ:カミーユ・コッタン
ドレイク家の家政婦。アリシアの生前、彼女を娘のように想っていた。
◆ドクター・レスリー・フェリエ:ジェイミー・ドーナン
ドレイク家の主治医である医師。
◆レオポルド・フェリエ:ジュード・ヒル
ドクター・フェリエの息子。10歳だが早熟で、達観した雰囲気を持つ謎めいた少年
◆ヴィターレ・ポルトフォリオ:リッカルド・スカマルチョ
ポアロのボディーガードを務める元警部。
◆ジョイス・レイノルズ:ミシェル・ヨー
降霊術を操る霊能力者
◆ニコラス・ホランド:アリ・カーン
レイノルズの助手。デスデモーナの異母兄弟。
◆デズデモーナ・ホランド:エマ・レアード
レイノルズの助手。ニコラスの異母姉妹。
【スタッフ】
◆監督:サー・ケネス・ブラナー
◆脚本:マイケル・グリーン
◆原作:アガサ・クリスティ(『ハロウィーン・パーティ』より)
◆製作:サー・ケネス・ブラナー、リドリー・スコット他