2023年8月23日

 

第30回平櫛田中賞受賞記念 棚田康司「空を見上げる」
日本橋高島屋 本館6階美術画廊X


 年金生活者の老人がデパートで買い物などまずしない。しかしながら時間調整で美術展示スペースにはしばしば訪れる。高島屋や三越は、催事場スペースで有料の美術展を開催することも多い。株主優待で無料になることがほとんどなので、最小単位の株を保有している。

 他の百貨店でも、横浜そごうは「そごう美術館」という常設の美術展示スペースがあるし、名古屋の松坂屋も同様である。日本橋三越では、行ったことはないが「三越劇場」で落語会、コンサートなど各種文化事業を展開している。
 百貨店のプレゼンスが落ちたとはいえ、なかなか頑張っているね。

 

 さて、この日は日本橋高島屋の8階催事場で『高野光正コレクション 発見された日本の風景』という有料展示を見るのが目的だった。それはそれで十分堪能したうえで、6階の美術展示スペースに赴くと『第34回 明日の白日会展』がちょうど開幕を迎えたタイミングであったらしく、関係者多数がにぎやかに談笑していた。

 毎年3月に国立新美術館で開催される白日会展の出品者の中から選ばれた絵画・彫刻の若い世代の作家が、さらに互いを高め合う場として始まった由。

 

 ふと目を横にやるとそこに美術画廊Xという展示スペースが。ここはごく限られたスペースで、個展というほどの規模ではないが10点程度の作品を紹介している場所で、時に興味をひく作家に出会うこともある。この日が正にそういう機会で、一目見て去りがたい気持ちになり誘われるように入って行った。

 

 一見舟越桂に似ていなくもない。これで首が長く、玉眼ふうの目を入れればもっと近い印象になるだろう。いや、~に似ているというのはアーティストに対して言う言葉ではないのかもしれない。長年の研鑽と苦労の末に確立した作風をそのような粗雑な言葉で理解したつもりになっては失礼だ。

 

 

 平櫛田中賞とは、日本の近代彫刻界に偉大な足跡を残した平櫛田中(ひらくしでんちゅう、1872~1979年)が、彫刻界の発展に寄与すべく、百寿の記念に私財を投じ設立された彫刻賞。
 今回の受賞者の棚田康司氏は、1968年兵庫県明石市出身。東京造形大学を経て1995年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了。憂いを秘めた表情の、か細く繊細な一木造りの少年少女像で注目を集める作家で、受賞理由は「木彫における伝統性と現代性を高いレベルで融合させていること」である由。

 

これが『空を見上げる』

 

 

 

 

 

 

 

 


 たしか素材は楠であると表示されていたように思う。楠は樟とも書く。舟越桂氏も楠を素材に使うことで知られる。東京造形大学彫刻科を経て大学院は東京芸術大学へ進んだことも共通している。だから似ているというつもりはもちろんない。

 

 実は舟越氏も 平櫛田中賞受賞者である(第18回)。

 さらに、文化庁芸術家在外研究員に選ばれたのも同じ。舟越氏はロンドン、棚田氏はベルリンと、留学先は異なるが。

 舟越氏はタカシマヤ文化基金第1回新鋭作家奨励賞を受賞、棚田氏は第20回タカシマヤ美術賞を受賞。そんなことは会場のどこにも書いていない(当たり前だ)。だが、これだけ共通項がそろうとますます興味は深くなる。

 

 棚田康司、記憶にしっかり刻み込まれた。注目していきますよ。