2023年7月3日

アラビアのロレンス/4K 完全版

 

これはたぶんオリジナル上映の時のポスターか

 

これは「完全版 ニュープリントバージョン」と出ている

 

さてこれはどのバージョンか

【キャスト】
ピーター・オトゥール:ロレンス
オマー・シャリフ:アリ首長
アレック・ギネス:ファイサル王子
アンソニー・クイン:アウダ・アブ・タイ
ジャック・ホーキンス:アレンビー将軍
ホセ・ファーラー:ベイ司令官
クロード・レインズ:ドライデン
アーサー・ケネディ:記者ベントリー

 

【スタッフ】

監督:デヴィッド・リーン
脚本:ロバート・ボルト、マイケル・ウィルソン

製作サム・スピーゲル、デヴィッド・リーン

音楽:モーリス・ジャール

撮影:フレディ・ヤング:ニコラス・ローグ

公開
 イギリス、アメリカ 1962年12月16日
 日本 1963年2月14日(オリジナル版)、1995年2月(完全版)
上映時間 207分(オリジナル版)227分(完全版)
製作国:イギリス

 

 最初に見たのはいつだったか。1963年2月というのはわたしが小学校に上がる前だから、これはたぶん違う。95年はアメリカにいた頃でこれもそんな記憶はない。その間にリバイバル上映がおそらくあった時に見たと思う。それでもたぶん30年くらい前のことだから、内容は全く覚えてなかった。二つの場面だけ妙に覚えていたのは、ロレンスが、アラビア湾の要衝アカバを、トルコ軍を攻めるターゲットとして思い立った時に呟く「アカバ・・」という台詞と、砂漠の行軍の最中もヒゲを剃るロレンスに対して、オマー・シャリフ演じるアリが、「貴重な水をムダに使って・・」と非難する場面。

 

 照明が落ちあのテーマ音楽が流れて、さぁいよいよ、と思ったら、全く映像が現れない。ゆうに3分程度スクリーンは真っ白(真っ黒?)だった。これは機器の故障かと心配し、受付に知らせに行こうかと思い始めてやっとスタートした。これはいったいどういうことか。4Kで再編集したというなら映像と音楽もちゃんと合わせてくださいよ。

 休憩後の後半も全く同じスタートだった。さすがに冒頭で経験していたので今度はあせらなかったが、これはひどい。

 

 ピーター・オトゥールは熱演には違いない。アカデミー賞の主演男優賞の候補にもノミネートされた(受賞は逃す)。しかしやはりその存在感を存分に放っていたのは、オマー・シャリフ、アレックス・ギネス、アンソニー・クインの準主役3人であった。

 オマー・シャリフのかっこいいこと。「十戒」におけるユル・ブリンナーにも例えらえる。アレック・ギネスは皇太子としての威厳と品をたたえつつ、老獪で狡猾な王族としてのオーラを身にまとっていた。これに対してアンソニー・クインは部族の長としての統率力と、半ば盗賊に近い荒々しい迫力を発散していた。

 全く趣は違う映画ながら、「ブラックレイン」では高倉健とマイケル・ダグラスの日米2大俳優がW主演のはずであったところ、松田優作が完全に二人を食っていたことをふと思い出した。

 美しい映像と重厚なストーリー、壮大な砂漠の自然、迫力ある騎馬隊の肉弾戦、どれもが映画黄金時代の空気を感じさせ、ある意味ノスタルジーを覚えたことである。ただ、やはりいかにも長い。完全版では227分、ほぼ4時間である。途中休憩ありとはいえ、集中力を保つ限界に近い。あと、この時代の映画にありがちな、やたらうるさい音楽が気に障った。

 

 ひとつ気になったのは、白人の視点というか、アラブの人たちの描き方が、西部劇におけるインディアンと全く同じように思えたことだった。BSテレビではジョン・ウェイン主演ものとかやってるみたいだが、今 西部劇を映画館でかけることはまずないだろう。アメリカでは“風とともに去りぬ”でさえ、黒人差別の表現があるということで、上映を回避する動きが出ているらしい。

 

 小説だと「この作品はフィクションです。登場する人物、団体は実在の個人、団体とは関係がありません」という断り書きがあるが、映画で同様の文言を見たことがないのはむしろ不思議なことだね。

 この映画についていえば、実在の人物をモデルにしているが、もちろんドキュメンタリーというわけではない。主人公トマス・エドワード・ロレンスにしてもほんとうにアラブの大義の実現を目指していたのか、それともあくまでイギリスの国益のために動いていたのか、立場によって見方は変わるだろう。

 

 「イギリスの三枚舌外交」と呼ばれる三つの協定、即ちフサイン=マクマホン協定、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言についてはこの映画は詳しくは触れていない。せいぜいサイクス・ピコ協定(第一次世界大戦中の1916年5月16日にイギリス、フランス、ロシアの間で結ばれたオスマン帝国領の分割を約した秘密協定)を締結した事に、ロレンスが絶望を感じたことを描いているに過ぎない。それもあるいはアラブの側から見れば偽善に映るのかもしれない。

 イギリスの一連の矛盾外交はパレスチナ問題や、現在も不自然な国境で分断されているクルド人問題などの遠因となったと言われている。インドの植民地経営、アヘン戦争から香港租借に至る対中国侵略も含めて、その狡猾にして無責任な外交姿勢は昔から変わらないのだ。ロシアによるウクライナ侵攻を非難できた柄か。