2022年10月11日

 

 これは素直に言葉が嫌いである。かんぬんて何よ?「なんとかかんとか」や「なんでもかんでも」からの連想か。「なにもかも」を初めとして、「なんたらかんたら」とか「なんやかや」「なんだかんだ」とか親戚はいくらでもある。

 一方、「うんぬん」はそこで完結したひとつの言葉だ。意味は、「引用した文や語句のあとを省略するときに、以下略の意で、その末尾に添える語」(大辞泉(小学館))というあたりが代表的なところか。「かんぬん」は語呂合わせで語調を整えるくらいの意味だろう。「うんともすんとも」もこれに近い。

 私が初めてこの「うんぬんかんぬん」を耳にしたのは、1980年に最初の会社に入った時の新人研修で、同期の男(といっても女子は同期114名中1名のみ)の、なにかのプレゼンの際であったと記憶している。その時「へ?かんぬんて何だ」とたぶん口に出したような気がする。発言の主も、それを聞いてすぐに別の言葉に言い換えたから、彼自身あまりフォーマルな言葉ではないと言う自覚はあったと見える。辞書編集者の飯間浩明氏は1985年に友人が使うのを聞いたのが最初だと記していた。国会議事録での初出は1980年代だそうで、この辺が一般的に使用が始まったころと推察される。確認できる限りでは、雑誌『現代の眼』74年10月号の対談の中で〈子殺し化に向かってる云々かんぬんと論ずる男は〉と使われているのが最も古い例であるらしい。いずれにしてもかなり新しい言葉であり、文章語としてはあまりこなれてない存在であるようだ。

 

 「なんとかかんとか」や「なんでもかんでも」の類は、少なくとも「なれ」と「かれ」の対比が見られるが、「うんぬんかんぬん」は単にリズムを整えるための囃子言葉みたいものである。前述の通り「うんぬん」だけで意味は通る。「かんぬん」によって意味が加わるわけではない。したがって公式文書に記載するのはまだ憚られるということと理解している。

 

 「うんぬん」は「云々」と漢字で書くことはある。「かんぬん」は単なる囃子言葉・・と思っていたら「云々閑雲」と書く例があるそうで驚いた。さすがにこれは誤用であろう。『全唐詩話』の中に、大空にゆったりと浮かぶ雲と、広い野にいる野生の鶴の意から、世俗に拘束されず、自由にのんびりと暮らすたとえ、あるいは、自適の生活を送る隠士の心境のたとえとして「閑雲野鶴」という言葉があって、そこからの引用・・とは言えないよね。もちろんこの「閑雲」の読みは「かんうん」であって「かんぬん」ではない。ただし、「観音」が「かんのん」と読まれるように、日本語の「連声」現象によって「かんぬん」と発音することに一定の合理性はある。「安穏」「因縁」「反応」みな同じである。そもそも「云々」が連声の一例だ。

 ただし、もちろん「云々」を「でんでん」と読むことはない。

 あ、安倍さんゴメンなさい。