今日はこれ。コロナビール。

 

 私がアメリカにいたころ(平成の初めごろ)は、輸入ビールではハイネケンに次ぐ2位だと言われていた。リゾートビールというジャンルがあるそうで、いかにも浜辺やクラブで飲むという風情、あの透明ボトルにライムをつっこんでラッパ飲みするのが正式の飲み方とかで、日本でも知名度は高い。でもあの飲み方は後始末がたいへんで、進次郎に言わせればセクシーじゃないね。

 

 昨年4月、そのコロナビールが風評被害で生産中止という新聞記事には笑ってしまった。

 

 

名前が一緒だからというだけで、元々ある製品とウイルスを結び付けるという発想が幼稚園児なみだ。真相はメキシコ政府が不要不急の産業に停止を求めたということのようだが、ビールが不要不急だなんて言うと、チェコ国民はたぶん暴動を起こす。なにしろ一人当たりビール消費量では、2位のオーストリアの倍近い年間192リットルで、ぶっちぎりの首位の国民である(2018年キリンビール調査による)。ただし、この数字には若干のからくりがあって、消費量には観光客等の非居住者が飲んだ分も含まれている。チェコは年間14百万人以上の観光客が訪れる観光大国である(日本政府観光局2019年の数字)。一方チェコの人口は約10百万人であり、飲酒人口はざっと8百万人といったところか。チェコを訪れる観光客のトップはお隣のドイツ、そして旧東欧諸国の親分であったロシアである。チェコ人に負けないくらい飲むだろう。したがって、一人当たり消費量は2~3割は水増し(ビール増し)されていると目される。それを除いてもダントツなんだけどね。

 風評被害といえばわが日本でも、新潟県三条市にあるストーブ製造大手の株式会社コロナは、コロナ禍初期に株価下落や、社員の子供が学校でいじめにあうなどの笑えない事態に遭遇した。このため社長名で地元紙の新潟日報に全面広告を出して、「そもそもは、コロナは、太陽のコロナなんだと社員や子どもたちに伝えなければならないと思い、『キミのじまんのかぞくは、コロナのじまんのしゃいんです』というタイトルの広告を作った」(2020年10月9日日経新聞インタビュー)ことがニュースになった。この広告が全国ニュースで採り上げられたおかげで、全国から激励の便りが届いたり、逆に社員の士気が上がったりということで災い転じて福となすという結果になったことはまことにご同慶の至りである。

 コロナウイルスの名前の由来は、顕微鏡で見たその姿が、太陽の光を放つ形に似ているからということはよく知られている。チェコの通貨はコルナというが、実はこれもコロナと同義である。株式会社コロナの社長によれば、社名の由来もやはり太陽であるという。ペルーの通貨はソル(2015年まではヌエヴォ・ソル=新ソル)で、スペイン語で太陽を意味する。さらに、その前はインティであり、これはインカ語で太陽である。太陽の光と熱がなければ人間は生存できない。全世界に共通する畏敬の対象たる太陽が、このウイルスの名前の由来となっていることは皮肉としか言いようがないが、やがてこのパンデミックの闇が明けることを期待して、もう少しの間我慢しよう。

 

母が聞く新型コロナはトヨタかと