2021年9月24日
 
映画「総理の夫」を見た。原作は原田マハ。
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 つい最近もこの人の原作である「キネマの神様」を見たが、いずれも面白かった。もちろん小説と映画は別であるから、映画がおもしろかったからといって、原作たる小説が優れているとは限らない。まして、「キネマの神様」は原作を換骨奪胎したもので、その趣はかなり異なるものらしい。「総理の夫」の単行本は2013年7月に実業之日本社から出版され、私が読んだのは2017年3月で、おもしろかったという記憶はあるが、正直内容はほとんど覚えていない。今日映画を見て、こんな話だったかなという程度の記憶である。覚書として記録した私個人の評価は、今確認してみると中の上といったところ。その程度かいって思うかもしれないが、この方の作品は水準が一定していると思いますよ。はずれがないから安心して読めるし、読み終えてがっかりということもない。そもそも美術のキュレーターとして出発した方が、これだけ手練れの小説を創造することに感嘆を覚える。
 映画は、日本初の女性総理大臣の誕生と、その信念をもった政治姿勢を描くという固いテーマでありながら、エンターテインメントとして肩ひじ張らずに楽しめるヒューマンコメディといった風情。党派色はほとんど感じられない。ただ、自民党の総裁選挙がいよいよ大詰めを迎えるタイミングでの公開は、制作者も意図していなかったのではないか。
 新聞、テレビでは相変わらず党員党友の支持は河野太郎行政改革担当大臣が圧倒的首位で、これを岸田文雄政調会長、高市早苗元総務相が追い、野田聖子幹事長代行は蚊帳の外という形で報じている。一方ネットでは高市候補が圧倒的支持を集めているという。この映画は結果として高市候補の背中を押す力になっていないか。この映画を見ると、キャッチフレーズの“日本の未来、先取りしちゃった”という言葉が現実のものに思えてくる。野田候補だって女性総理をめざしているだろうという向きには、野田さんてなぜ総裁選に出馬したの、と問いたい。本人がすでに、当選者は自分以外の人と公言しているし、メディアでさえ野田候補の当選可能性はゼロと報じている。くわえて、夫が元暴力団員であったと裁判所が認定した(2021年4月21日東京地裁)件をまたほじくり返されている。
 党員投票で、まかり間違って高市候補が2位に入って河野候補との間で決選投票ということになれば、高市候補に一気に流れが傾くことは十分起こりえる。小泉純一郎首相が自民党総裁選で橋本元総理を破ったときは正にその構図であった。そういえば、小泉首相は総裁選で、靖国神社に毎年終戦記念日に参拝するというのが公約の一つであったが、自民党有力支持団体の遺族会の票欲しさであったらしい。小泉氏は首相在任の前も後も全く靖国に参拝していないと伝えられる。票のために動くか、カネのために動くか、しょせん小泉氏は理念も国家観もない、家業としての政治家を勤めていただけの、ある意味典型的自民党代議士だったと総括しても大きな間違いではないように思う。あの時の熱狂はなんだったのか。映画の中で、初めての女性首相を迎える群衆の歓呼の声は、小泉劇場のから騒ぎと恐ろしく似ていた。
 ところで、現在「パンケーキを毒見する」という映画も上映中である。
7月30日公開と言いつつ、ざっくりと過半の映画館では菅首相退陣表明後の上映開始のようだ。こちらは気の毒なことに、なんとも間の抜けたタイミングでの公開となってしまった。本心は、総選挙の前に菅総理のイメージダウンを図って自民党に打撃を与えようとしていたのだろうが、これ、結果的には菅さんは身を挺して、メディア、国民の耳目を自民党総裁選に集め、自民党の沈没を食い止めたということですね。映画は見てないが、登場するのが前川喜平、古賀茂明といった反体制元官僚、石破茂元自民党幹事長、小池晃日本共産党書記局長等々政治的対極にある人ばかりでは、あまりに色がついていて心を大らかにするのもむつかしい。まして企画、制作が、あのあまりに怪しい東京新聞の望月衣塑子記者をモデルにした「新聞記者」と同じ河村光庸というのでは推して知るべしでありましょう。河村氏は業界では高名なプロデューサーであるらしく、北朝鮮帰国事業を扱った「かぞくの国」も企画、エグゼキュティブプロデューサーとして関わっている。2012年の公開ということで、日本にいなかった私は見ていない。最近の映画でいえば、「ヤクザと家族 The Family」を見たが、これはチョーつまらなかった。
 
さてさて、事実は映画より奇なりとなりますか。楽しみに今月末を待ちましょう。