2021年4月27日

 

 

 

 ”ノマドランド”が今年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、最優秀主演女優賞を受賞した。私が3月末に見に行った時点で、すでにヴェネツィアやトロントの国際映画祭で最高賞を受賞しており、アカデミーでも最有力候補だったらしい。前評判通り三部門で受賞したわけだが、映画そのものは退屈だった。クロエ・ジャオに授与された監督賞は、非白人(この表現がすでに差別的)女性で初の監督賞というのが話題になったが、結局この作品によって彼女が何を言いたかったのか、私の頭が悪いせいか、よくわからなかった。

 物語は、リーマンショックによる不況の影響で職を失った元教師の女性が、季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送る中で、さまざまな人と出会い、自由な旅をあえて選択するという話だが、で、それが何?というところまでしか思いが至らない。現代の物質文明へのアンチテーゼであるとか、幸せは金銭だけでは手に入れられないとか理屈をこねたところで、陳腐なポエムでしかない。アマゾンがある意味ブラックな労働環境の象徴として描かれているのを、アマゾン自身が撮影に協力しているわけだから、悔しかったら金稼いでから言えということか。

 俳優はそれぞれ熱演だったと思う。特に、主要登場人物のかなりの人が本当のノマド;現代の遊牧民 であるというのには驚いた。主演のフランシス・マクドーマンドも含めて、抑制された演技、いやあるいは素のままだったのだろうか、最近日本でもよく目にする大袈裟な演出の対極にある俳優たちの姿には快い意外感を覚えた。

 そういえば、2月に日本映画で「ヤクザと家族 The Family」を見た。ステレオタイプな社会悪としてのヤクザの描写、その中にも疑似家族愛はあるんだよってか。俳優たちの熱演を無駄遣いしないでほしい。

 アカデミーの受賞者たちのスピーチは、まるっきり面白くないのが常だが、今年のクロエ・ジャオのはよかった。ほとんどの受賞者が、関係者の名前をずらずら連ねて、最後に”Thank you, Mom. I love you, I love y'all"と言って終わるのが定番だが、彼女は中国の古典「三字経」から「人乃初 性本善」を引用して、「私はこの言葉に子どもの頃に大きな影響を受けました。今でも、実はその反対が真実ではないかと思える時でも、私はそれを信じています。そして、私は世界中どこへ行っても、常に人々の優しさと出会ってきたのです。」と語り、「たとえどんなに難しくても、信念と勇気を持って自身の善良さを持ち続け、お互いの善良さを手放さない人たちに贈る賞です。これはあなたたちの賞です。あなたたちに刺激を受けて、私はこの仕事をし続けていくことができるのです。ありがとう。」と締めくくった。

 アカデミー賞受賞の少し前あたりから、彼女の言説が中国共産党に批判的であるということで、中国メディアは全く彼女の話題に触れなくなったという。彼女の言う、「世界中どこに行っても人々の優しさに出会ってきた」とは、 except mainland China が抜けているのだろう。いや、そんなゲスな思いを抱くのは、徘徊老人の私くらいか。

自戒を込めて。