私は、アルゲリッチとポリーニは名前は知っている、CDも1枚くらいは持っているという程度のゆる~いクラシック愛好家(とすら言えない)です。

 そんな私にとっては、対照的と言われるこの二人のピアニストについて、ちょうどいい入門書でした。同じ楽曲でも、だれが振ったあのオーケストラのどの盤が最高だ!なんて批評し合うレベルのファンには物足りないゴシップ本なのでしょうが。

 さて、そんな私でもポリーニのコンサートに行ったことがあります。2013年の1月でした。そのころプラハに住んでいた私は、プラハ音楽院(Pražská konzervatoř)で研鑽に励む日本人留学生の何人かと親交がありました。そのうちの一人が、前日だったか当日だったか、ドレスデンで開催されるマウリツィオ・ポリーニのコンサートに行くと言うのです。雪の降っている日でした。プラハからドレスデンには鉄道が走っているので、もちろん彼女たちだけで問題なく行けるはずです。しかし、この雪の中列車の旅は大変だろうと、車を出してあげると申し出たのです。会場はゼンパーオーパーの愛称で知られるドレスデン国立歌劇場(正確にはザクセン州立ですが、旧称で呼ばれることも多い)でした。チケットは当日立ち見券なら大丈夫というので、何も準備しないまま出かけました。

 クリスティアン・ティーレマンが振ってシュターツカペレ・ドレスデンがゼンパーオーパーにポリーニを迎えるというのだから、ふと思い立って行ったにしては豪華な顔ぶれですね。曲目はブラームスのピアノ協奏曲2番でした。この日の演奏はドイツグラモフォンからライブ盤として出ています。ポリーニがDGレーベルでブラコンの2番をライブ録音するのは76年、95年に次いで3度目ということですから、マニアックなファンは聞き比べるのでありましょうね。2013年当時ポリーニは71歳、円熟の境地であったのか、さすが全盛期は過ぎたとみるのか、私にそんな耳はありません。ただオペラ用の天井の高い会場の一番上の立見席で、うろうろ動きまわりながら高名なピアニストの演奏を眺めていた、というのが実際のところです。

 このときいっしょに行った二人の留学生のうち一人は、2010年のショパン国際ピアノコンクール、2013年のエリザベート王妃国際音楽コンクールの本選に出場したという、当時のプラハ日本人ピアノ留学生では頭抜けた存在でした。その彼女をもってしても、現在はコンサートピアニストとしてより、日本国内での指導者としての活動に軸足があるようで、芸術の世界の厳しさを思い知らされます。彼女の本選での熱演の姿はショパコンの機関紙の1面を飾り、その後長らくワルシャワの地下鉄ホームにも掲げられていたそうです。その写真貼っておきます。本人の許諾は得ていませんが、彼女のリサイタルのプログラムには必ず出ている写真であり、特に問題はないかと。

 

 

 さて、この「アルゲリッチとポリーニ」には世界の主要な音楽コンクール(特にピアノコンクール)について記載があるのですが、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールの箇所が気に入らない。2009年の辻井信行の優勝に触れるのは当然として、2013年の最年少ファイナリスト阪田知樹をスルーしている。彼はその後2016年のフランツ・リスト国際ピアノコンクールでみごと優勝を果たしています。クライバーンコンクールの後しばらくして、プラハで毎年開催されている“ヤング・プラハ”という音楽祭の大トリを飾ったのが阪田さんでした。演奏会後のレセプションにもぐりこみ、阪田さんの知己を得たのも懐かしい思い出です。基本的にはドイツをベースにしつつ、日本国内でも意欲的にリサイタルを実施中で、私も一度だけですが千葉でのコンサートにお邪魔してご挨拶させていただきました。

 日本の若手男性ピアニストでは、反田恭平がおばちゃん人気が高いようですがどうしてかな。写真集まで出ていて、阪田さんよりTV出演をはじめメディアへの露出度も知名度も高い気がする。阪田知樹がんばれ!