「トヨトミの逆襲」(梶山三郎)小学館 2019年12月

 

 前作の「トヨトミの野望」もそうだったが、ここまで自動車業界の内幕、特にOEMメーカーとサプライヤの関係を一般に知らしめて大丈夫か。小説作品にはお約束の「登場する人物はすべてフィクションであり、実在の組織や人物とは関係ありません」という断り書きが実にそらぞらしい。誰が見てもトヨタ自動車と業界の話ではないか。作者の梶山三郎は覆面作家だそうで、おそらく現役かそれに近い新聞記者ではないかと想像される。ペンネームからして梶山季之と城山三郎の合成だと容易に推察されるのもご愛敬か。

 自動車業界に10年近くいた者として、『トヨタあるある』がたくさん出てきて苦笑させられた。 

 その一例

『こちらにしてみれば、せっかく来たのだからと本来やるべき仕事を後回しにして対応しているのだ。手土産がほしいわけではないが、なにも礼儀までコストカットすることはないだろう。』

 彼らは部品メーカーの社員をまるで自分たちの部下のごとく扱う。現場の作業員を平気でどなりたおす。協力メーカーと言い、サプライヤのみなさんと言ったところで、彼らの意識ではしょせん下請け企業、俺たちのぬくもりで生きてるんだろうという態度が見え見えである。

 技術指導にしてこれであるから、下請けへの発注担当の態度はすさまじい。これはトヨタではなくホンダの例だが、下請けの営業担当がホンダを訪ねて帰社した直後、ホンダの担当者から電話がかかってきて、「お前今日手ぶらで来やがったな。どういうつもりだ。」と難癖つけてきた。あるいは逆にホンダから担当が来て、さて帰る段になって自分の乗ってきた車を見て、「洗車してねぇじゃねぇか」、さらに「ガソリン満タンになってないのはどういうことだ。」とまぁやりたい放題である。

 購買〇年やれば家が建つ、というのもあながち冗談ではないのだろう。ちなみに日産は購買といい、トヨタは調達という。

 日産は部品メーカーに対して“Business Link”と称する上納金を事実上強制している。前年度の取引実績に応じて、製品価格の数パーセントを価格引き下げの前払い金として支払わせる。これに応じなければ見積依頼書(Request for Quotation=RFQ)を発行しないぞと脅すのだ。発注側が前払い金を出すのならわかるが、前渡金を要求するというのはいったいどういうことか。これを優越的地位の濫用と言わずしてなんと呼ぶのか教えてください。

 トヨタはここまであこぎなことはしない。価格改定と称して一方的な値引きを年度初めに通知して、サプライヤの請求書を無視してその金額しか支払わない。サプライヤは協議が決着するまで不足分は未回収の売掛金がたまっていく。もちろん会計的にはそれに備えて引当金を積んでいく。トヨタの場合はなんだかんだ言っても、最終決着までに事情を考慮して値引きを減額することもあり、サプライヤに対する配慮がないわけではない。日産には基本的にそんな余裕はない。Businss Linkはゴーン逃亡被告が来てからのことで、たぶんルノー発祥の強欲施策だろうが、欧米サプライヤも受けているのか興味深いところである。実は私、少額ながら日産の株主で、直近の内紛と業績不振による株価急落で痛手を被った。昨年の臨時株主総会でBusiness Linkの件聞いてやろうと思って質問者に登録したが、時間切れで順番が回ってこなかった。今年の定時株主総会でもう一回トライしたいが、COVID-19騒ぎで株主総会もどうなることか。