1519(詩というかショートストーリーですね)



「過去を捨てた男の姿に未来を見る女」


その男は

妙にさっぱりとした表情をしていた

前の男たちとは大違いだ


女の問いに

真っ直ぐ目を見て答えている


今の世にはとても珍しい


大抵は

どこかおどおどしていたり

自信がないのか下を向いていたり


こちらを向いているのに

目線はわざと外しているのか

視線が合うことがなかったり


はたまた

自分の都合のいい様に話を進めたり


そんな男たちには

この女の願いは叶えることはできないだろう




その男は多くは語らなかった


過去を聞いても

自分には何もないと言っていた


そんな人間がいるわけがない

記憶喪失でもなければだが


ちゃんと話は通じるし

言葉遣いも丁寧で節度をわきまえている



人間は

過去がなくても生きられるのだろうか


その目はきらきらと

輝いている様にも見える



この男は

間違いなく当たり


女はそう確信していた




女は過去を捨てたがっていた


でもどうしたら良いのか

分からなかった


ある時

未来を見据える事ができる人間を探そうと

考えながら歩いているときに


通りがかりの男に

声をかけられた


最初こそ期待をしたものの

結果的には外(はず)れだった


しかし


声をかけられるのは嫌ではなかった




何人目かの外れのあと

気になる男に目が止まった


なぜ気になるのか

女には分からなかった


珍しく女から声をかけていた




その男は

女に好意をいただいたかは不明だが

一緒にいることを嫌がらなかった



女は男にもたれ掛かり

未来を語ろうと誘った


男は何も言わずにただ頷いていた



女は

寡黙な男の未来を想像し


想像すらできない自分の未来と

すり替えることはできないかと

考えていた



mint