月宮の系譜・外伝2~bi-eye(片青眼) 第4章 七弦琴 no.3 | yuz的 益者三楽

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闇の帳が降りはじめる頃、引天籟は久方ぶりに楚青籟と酒を酌み交わす。
 
楚青籟とその兄である楚渾犼は数年前までこの陳府で生活し、先の伊蘭公主の乱の折には引天籟と维昊国で共に戦場に立った謂わば無二の戦友である。
亭国の将軍、维昊大国の太子とその立ち位置は変わったが、今でもあの時と同じく、彼らの間には揺るがない絆がある。
 
引天籟は秘蔵の葡萄酒を酒蔵からだし、遥か彼方にある维昊大国の料理で楚青籟をもてなす。
楚青籟は支度を整えた後、長老(周傑)に拝礼する。「長老様(周傑)、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。」
 
「フォフォフォフォ、そなたも息災で何よりじゃ。楚渾犼は元気にしておるか?」長老(周傑)は白い髭を撫でながら、感慨深そうに言う。
 
「はい。楚渾犼も元気にしております。先頃、長子が生まれ王府も華やいでおります。」楚青籟は笑顔で答える。
 
「そなたも先だって王妃を娶ったとか。これで代王家も栄えよう。良きかな。良きかな。」
「はい。誠に。」楚青籟は一瞬 複雑な表情を浮かべたが、それはすぐ消え微笑む。
 
 
暫くした後、扉の外から声がする。「首領(引天籟)、お呼びでしょうか?」
「こちらだ。入るがいい。」引天籟が声をかけると扉の外から高い鼻筋と切れ長の闇を溶かしたような双眸を持つ秀麗な少年:周 天佑が現れる。
 
楚青籟は周 天佑の顔をみてどこかで会ったような気がしたが、記憶を辿るがそれが誰であったのか思い出すことが出来なかった。
 
引天籟は周 天佑を傍らの座に招き寄せ、微笑みながら言う。「把兄(義兄、楚青籟)、この者は何れ我が维昊大国の将軍となる者です。」
 
引天籟は周 天佑に挨拶をするように促し、舞を舞う様に命じる。「天佑、先日 披露してくれた”龍の舞”は素晴らしかった。是非、我が把兄(義兄、楚青籟)にも披露してはくれぬか?」
 
周 天佑が諾の意を示すと、楚青籟も楽し気に言う。「それでは小四(引天籟)は箜篌(くご)を、私は笛子を奏でよう。今宵は十三夜月、月と龍とは趣がある。共に楽しもう。」
 
  青青陵上柏  青々として檜
  磊磊澗中石  累々と転がっている川の石
  人生天地間  人生は天地の間にありて 
  忽如遠行客  旅路にある旅人の様だ
  斗酒相娯樂  酒を酌み交わし、互いに楽しむ
 
十三夜月を背に舞う龍は天地を繋ぎ、音色は水面を震わせる。
弧を描く剣先は月明かりを浴びて光り輝き、勇壮なる龍は闇夜に浮かび上がる。
 
楚青籟はその美しさに感嘆し、暫し神仙の世界を楽しむ。
 
 
奥の院 中庭
中庭には甘く心地よい香りが漂い、間もなく月下美人が花開く。
月下美人の命は短く、一夜しか咲かない幻の花。
 
秦玉風(引凰華)はその花を”龍殿”(周 天佑)と共に楽しみたいと思い、侍女たちが部屋から下がるのを待ち、灯篭が足元を仄かに照らす回廊を急いで中庭へと赴く。
 
しかし、今宵はどうしたものか”龍殿”(周 天佑)は姿を現さず、秦玉風(引凰華)は長い時間 中庭で彼を待っていたが、終には回廊に面した彼の部屋を訪ねる。
 
秦玉風(引凰華)は维昊大国で暮らしていた頃、彼女の兄弟達の部屋を気軽に訪ねていたが、今回はそれとは異なり、躊躇しながら扉を叩く。
「”龍殿”(周 天佑)、いらっしゃいますか?」
声をかけるが、返答はない。
「”龍殿”(周 天佑)、眠っていらっしゃるのですか?」

返答はなく、彼は不在の様であった。

 
秦玉風(引凰華)が諦めて立ち去ろうとした時、不意に扉が開く。
 キィー
少し開いた扉の隙間から、部屋の奥に大切そうに置かれている美しい七弦琴が見え、秦玉風(引凰華)は驚く。
その七弦琴は遠目からも分かる程黒く美しく、絹の弦は輝くような光を放ち、よく手入れされているようであった。
秦玉風(引凰華)はこれまで”龍殿”(周 天佑)が七弦琴を奏でている姿を一度も見たことはなく、七弦琴を奏でぬ彼がこの様な琴を部屋に置いている事に驚きを隠せなかった。