浙江省の茶と歴史②浙東『温州府志』の茶記録(《瓯江逸志》の甌地茶etc) | 船橋市茶文化資料室

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乾隆25年(1760)『温州府志』中に記載されている温州地方の茶。転載。(青字)

巻十五・物産・茶

”五县俱有,楽清雁山龙湫背者为上,瑞安胡嶺、平陽蔡家山产者亦佳。《雨航雑記》雁山五珍,謂雁山茶与観音竹,金星草,山楽,官香鱼也。《雁山志》浙東多茶品,而雁山者称最,每春請明日採摘茶芽進貢。一枪一旗而白者名曰明茶,谷雨採者,名曰雨茶,此上茶也。又一种紫茶,香味尤佳,难种薄收,土人厌人求索,園圃中少植,間有之,亦必為識者取去。"《瓯江逸志》按茶経云:温州无好茶,天台瀑布水、瓯水味薄,惟雁宕山水為佳。此山茶亦为第一。曰去星腻,除煩悩,却昏散、消積食。但以銀瓶贮者得清香味,同陽羡山芥茶无二。采摘近夏不宜早,炒做宜熟不宜生,如法可贮二三年愈佳。"(中国方志叢書『温州府志』page788-789 乾隆25年刊行 民国3年復刻)

感想:

山にいる「土人」とはもしかして畲族のことだろうか、はっきりと書かれていないので断定できない。《瓯江逸志》という書物は清初時代に温州永嘉県で教官をしていた労大舆が書いた書物。そこの茶部分はその後の乾隆時代の『温州府志』に引用された。その内容は、以下の通りである。

《瓯江逸志》中にこう書かれている。”陸羽の言う「温州は上茶、つまり良質な茶がなし」というのは「甌水」の味が薄く、故に茶の味も薄かったのではないかと思う。実のところは「雁宕山」(雁荡山の別名)の水を使って温州茶を淹れるのが一番。雁宕山の山茶は一番美味しい。ここの山茶は生臭いものを食べる時、口直しができるし、飲むとすがすがし気分になり、日頃の煩悩解消ができる。さらに消化促進効果もある。銀瓶で水を貯えて淹れるとその味は「陽羡山芥茶」に肩を並べる。(ここの山茶の作り方は)夏頃から摘み、強めに炒り、出来上がったものは2,3年経ってから飲むとより美味しいと《瓯江逸志》の記載である。

 

[夏頃から摘み、強めに炒り、出来上がったものは2,3年経ってから飲む]という記述は、畲族、瑶族のお茶を思わせる内容であるが、、、、推測の域を出ない。時代は清の初期。この地域は現在「景寧畲族自治県」の周辺であり、畲族の集落が多く点在する場所だ。(上の地図をご参考)

 

注:

労大舆(lao-da-yu)。生涯、生出年不明。浙江省石門(現在嘉興市桐郷)の人。順治八年(1651年)の舉人。温州永嘉県の教官を務めた。(『浙江歴史名人辞典』より編集&翻訳)著書は《瓯江逸志》を含めいくつかあるが、温州茶について《瓯江逸志》の中で「甌地茶」と呼び、17世紀の温州茶における貴重な資料となっている。