朝いちの校庭は白線の粉がふわっと舞って、ラジオ体操の音がスピーカーから少し割れて聞こえる。家では早起きの台所で、唐揚げの香りと甘い卵焼きの湯気。ゼッケンの安全ピンが指にちくっと刺さって、「今日は飛ぶぞ」と息を吸い込む。父は脚立型の折り畳み椅子を肩に、母は大きな水筒と日傘で前のめり。赤白帽をくるっと裏返すたび、空がやけに広い。
整列。かかとの砂をトントンしているうちに、隣の列の友達が「靴ひもほどけてるよ」と口だけ動かす。スターターのピストル音がまだ遠く、でも胸の鼓動はもう速い。合図と同時に飛び出した瞬間、風が顔を切って、耳の後ろでバトンの音。どこかで歓声が割れて、どこかで泣き声が混じる。カメラのシャッター音はやたら多いのに、どのレンズもたぶん自分を追っていない気がして、でもそれがちょっと気楽だったりする。
✅ よくある「運動会あるある」:
・練習は完璧なのに本番でバトンを逆手で受ける
・借り物競走「お父さん」カードで、おじさん二人が照れ笑いでダッシュ
・ゴール直前で靴がスポンと脱げて、後ろを振り返る名シーン誕生
・大玉転がしが予想外に直進せず、先生の笛が高音で悲鳴
・昼のシートで“唐揚げ争奪戦”、ゼリーは半分だけシャーベット
・応援団の声が枯れて、帰り道は全員ささやき声
❌ 実際は…:
・感動の涙より先に、砂ぼこりで目がうるうる
・保護者席の場所取りで、無言の気合いが空気を押す
・ビデオは完璧な構図なのに、録画ボタンが赤くならない悲劇
・紅白帽が風で飛び、誰のか分からない即席交換会
・ゴールテープを切ったと思ったら、隣の学年の競技だったオチ
・帰宅後、靴下のゴム跡がくっきり日焼けライン
砂まみれで笑う日です:
運動会は、きれいな名場面よりも、ちょっとした“ズレ”が主役をさらっていく。ピストル音の前に出ちゃった子の「ごめん!」にみんなが笑ってやり直し、借り物のお父さんが照れて全力疾走、風に負けないように旗を振る腕の震え。昼のシートでは、いつもより美味しい気がするおにぎりに、友達の家の味が混ざる。午後の空は少し白っぽく、スピーカーから流れる校歌が遠くて近い。砂でざらついた手のひらをパンパンとはたいて、最後の団体演技で列が少し曲がっても、誰かの笑顔がぜんぶを許してくれる。ビデオは手ブレしても、声だけははっきり残っている。「がんばれー!」の重なりが、あの日の温度そのもの。優勝旗より、帰り道のリュックの重さと、ほてった頬を冷ます夕方の風。あの細部が、あとで何度も胸の奥で再生される。あなたの“砂と汗と笑い”の一幕はどこでした? 靴が飛んだ瞬間、借り物で起きた奇跡、シートの上の名ゼリフ——思い出したらそっと置いていってください。読むたび、誰かの運動会がまた少し続きます。最後に:あなたはどっち派?完璧な一本を目指す派、それともハプニング込みで楽しんだ者勝ち派。あなたの小さな奇跡、待ってます。