血を吸うカメラ ・・・これぞ「トラウマ」? | YUUYAの徒然なる電影欣賞

血を吸うカメラ ・・・これぞ「トラウマ」?


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【映画鑑賞日記 No.015】
『血を吸うカメラ』 
…1960年 【イギリス】
[原題: PEEPING TOM]


<そういう、語彙があるのね・・・>


女性が殺される恐怖に脅える、死の直前の表情をドキュメンタリーとして8ミリカメラに収める快楽を持った主人公(=「マーク」)の連続殺人。邦題はその凶器から付けられたのだろう。
最終的に、犯人捜査の矛先は、「マーク」に向けられるが、彼は既にその一連の連続殺人のフィナーレを頭の中で描いていた・・・。
『(捜査に来る警察を見て)やっぱり』『記録映画の仕上げだ』
動機となった彼の「女性の恐怖表情コレクター」としての異常心理背景は過去の父親とのある出来事と相関を抱かせるシーンが・・・。

原題の語彙(=のぞき魔)が解らず、調べた。なるほど、人名を使用した慣用句だったのか・・・。語源は本作と同じくイギリスで、その由来についても面白かった。
また、作品レビューで原題は「出歯亀」に相当すると目にし、こちらも調べる。
「窃視症」・・・当にこの作品の主人公の行動様式にピッタリの語彙だ。
『観淫症、性的なのぞきだ。彼(主人公)の父が研究を・・・』


<スタートから興味をそそって・・・感想は?>


スタートより・・・矢が的の真ん中に刺さる映像。ピアノの音と共に瞳孔を開きながら青い目が映される。

監視カメラを懐に持った男が売春婦の元へ・・・
「2ポンドよ」・・・興味をそそられるシーンではある。但し、カメラ越しの映像効果を鑑賞者に訴えるにはやや工夫が不足したか?


作品自体の感想としては、血の色を意識したであろう赤を基調にした映像がいい。
夜の撮影所で殺害されるまでの女優のダンスシーンのみ長く感じられたが、テンポの良い展開で、要所要所でピアノ音楽(伴奏)が下手に「精神異常」を明示する内容を遮ることなく小気味良い。
一見、カメラ好きの撮影技術者と見受けられる主人公に内在する「異常心理」が呼び起こす連続殺人

・・・ストーリーの骨格はしっかりしていて面白い。


この映画に影響を受けた異常心理射サスペンスはありそうだし、似たような映画も今後、出てくるであろう。
主人公の恋人の母親が「盲人」であり、そのステッキは主人公の凶器=三脚と絡むシーン、その背景の心臓の鼓動を表現した音楽も面白い。
このように枝葉にも骨組みを支える面白い道具(ネタ)が散在しているが。
如何せん、その本筋と道具の結びつきが弱く感じるのはなぜだろうか?
狂気殺人シーンを現代的に「グロく」、「スプラッター」的に撮影できずに迫力が不足したのは時代背景的に仕方ないのだろうが・・・


<印象に残るシーンと「トラウマ」とは・・・>


主人公が恋人に幼少の頃の自分の映像を見せる。
・寝ている時にトカゲに襲われ、恐怖と諦めが混在した表情。
・母が死に、後妻として再婚した女性と恍惚とした表情。
『父の興味は恐れに対する神経系の反応だ』

その後、本棚に置かれた心理学の研究者であった父の本の背中を拳骨でこするシーン。
これが最も印象に残ったシーン、ベスト・ショットと感じた。
恐怖を与えられる対象となり続けても、尚、その父を愛着して止まない膠着した心理。
恐怖=憎しみを超え、尊敬の念を抱くその理解に苦しむ心理。
『僕は(父の研究に)役立ったこともある』『父は素晴らしかった・・・』
『父のやり方だ。どの部屋も盗聴できる。』


父に撮影される側で虐待=実験台となっいた主人公がなぜ、被写体を写す側として享楽を見出したのか?女性のみを被写体とした理由は?幼少の写真で共に写っていた再婚した女性と関係があるのか?
など、整然とできない部分もあるが「トラウマによる殺人」
・・・この映画を見て、それまでピンと来なかった『トラウマ』という言葉を理解し得る断片を手に入れた気がした。


「助けてほしい・・・魔法のカメラより」---主人公が肩身離さず所持していたそのカメラにひっかけた「血を吸うカメラ」、観て損のなかった映画であった。