詩意

私を棄(す)てて去ってゆく者は、

昨日というその日であり、引き留めることができない。

私の心を乱しつづける者は、

今日というこの日であり、憂いは尽きることがない。

遠く吹き渡る風は、万里のかなたから秋の雁(かり)を運んでくる。

この時この景色に向きあえば、高楼で酔い尽すこそ相応(ふさ)わしい。

 《中略》

ああ、刀を引き抜いて水を断ち切っても、水は更に流れつづけ、

杯を挙げて愁いを消しても、愁いは更に愁えつづける。

人としてこの世に生きていれば、心にかなわぬことばかり。

明日こそは、冠(かんむり)を捨て髪を散らし、一そうの小舟に身をまかせ、自由な天地に漕ぎ出そう。




第41回産経国際書展に出品した拙作です


有難いことに審査会員優秀賞に選んで頂き、昨日明治記念館の授賞式に行って来ました


そして今日は東京本展を観に行きました



私はもう長いこと、お手本なしです


いつも自分の気に入った詩を書きます


今回は岩波文庫の『李白詩選』の中から雑言古詩を選びました



生きていると、誰しも様々な苦難があります


愁いが襲ってきて、悶々とすることも多々ありますが、


この李白のように、前を向いて壁を破る戦いを起こす時、


また次のステージに上がれるのだとの気概で書きました



私は李白が好きです


杜甫は暗いですが、李白は明るくて破天荒なところが自分と共鳴します



さて、詩を選んだら今回はいつもの『五體字類』ではなく、『王羲之書法字典』から集字しました


それを子どもの漢字ノートに貼り、本番の二六を縮小した大きさの紙に構成を練りました


しかし、実際書いてみると様々な課題が見えてきます


それにつけて、作品を書くはずの1月〜3月は初めての青色申告や産経ジュニアの手本書き、漢字、仮名の月例などで、ほとんど書けませんでした


4月に入り、まだ墨付けの位置が決まってなかったりしましたが、ある研修に行くことを強行しました


その時の様々な出会い、感動を携え、作品提出の前にいつも取る数日の休みに一気に書きました


仮名で習っているように、太い線で連綿があれば、隣は細い線で粗を見せたりして白を効かせてみたり、字のへんとつくりの間を広く開けて包容力を見せたりしてみました


結局36枚しか書けませんでしたが、今まで書いた自分の作品の中で1番気に入りました



紙は中国の紅星牌という高価な紙ですが、たぶん10年ほど前に買ったものです


紙は寝かすと良いと言いますが、思ったように滲み、掠れが出て、細かいことが出来る状態になっていました


初めは安価な紙で書いていましたが、全く駄目なんです


滲みすぎて、字が大きくなったり、細かい表現が出来なかったり


紙は残るものだから、いいものを使った方が良いと私は考えています


安価な紙に100枚書いても出来ないことが、高価な紙なら1枚で出来たりします


どうすれば価値ある時間の使い方、お金の使い方が出来るのだろうと日々考えていますが、受賞を狙うのなら畳や襖、ドアがバリバリになっていようが、下着が破れようが、私は紙にお金を使います


私はお金の価値をいまいちよく分かっていません


それでご迷惑をおかけすることも多々ありますが、もしいい紙を使い受賞したら、それは未来を変え得るんじゃないかと考えているからです


安価な紙で10年、毎年100枚書くのと、高価な紙で10年書くのでは、書いたものの価値が異なるんじゃないでしょうか



とはいえ、例えば1枚500円とか考えていたらビビって書けません


だからお金のことは考えないことにしています


書道をするのはお金がかかります


昔、書道はお金持ちがするものかなと思っていました


しかし、実際ハマってみると、楽しいんです


自分の意図を持って書いていると楽しくて仕方ない


今回は、産経審査員のO先生に「二六の横やってみたら。」と言われ、イメージが湧いてワクワクして書きました


ワクワクした時って、受賞云々ではなく、書いていて楽しいです


書きながら作戦を練るのが好きなんですね


イメージが頭にあって、それを瞬間瞬間挑戦する


特に楽しかったのは、昨年から仮名の俄山先生に半切の横書き手本を頂いて書いていたので、横書きが楽しくなったんですね


縦3行や4行は横に来る字が少ないですが、横が多いので、同時進行で全体を見て挑戦するのが難しくてやり甲斐がありました



字典で王羲之書法を選んだのは、王羲之の雰囲気を匂わせたかったからです


また、締め切り前には米芾の法帖を仕事場に持って行き、空いた時間で全臨していました


作品の作り方、米芾の様々な筆遣いを学んでいました



選んで頂いた特別選考委員の先生方、審査員の先生方、仮名の俄山先生、ここまで育ててくださった師匠、書道会の先生方に感謝致します



長文をお読みくださり、ありがとうございました


作品を作る参考になれば幸いです