息子を喪ってから何を考えていたか。
茫漠とした悲しみのなか、それは直ちにこの世を去ることではなかった。
一人になった身だからこそ始末しておかなければならないことはある。
そのころは健在だった母と、息子の葬儀一切を取り仕切ってもらった弟に迷惑をかけるわけにはいかない。
自分の身辺整理だけはしておきたかった。
息子の諸手続きだけでも労力を要し、憔悴していた私は、出来るだけのことをしておかなければ向こうの世界には行けないと思っていた。
そして留まる理由は生きている者だけとは限らなかった。
それは、息子が残した文章。
入院中の日記、エッセイ、短編小説など、文章を書くのが好きだった息子は、高校時代は文芸部に所属して数多くの文章を残している。
大学に入ってからもそれは続いていて、闘病中も体調がいいときは原稿用紙に向かっているのを幾度か目にしたことがあった。
そのころはなにか書いているとは思ってはいても、さして気に留めることもなかった。
それが、あの子が亡くなったのと同時に、にわかに生命を持ち始める。そこにはあの子の気持ちがあるのだから。
何か分かるかもしれない。
当時の私は、息子の書いた、まだ読んだことのない文章を全て読んでみたいと思った。
でも、実際は、警察署で渡された入院中の日記とその中にあった「遺書」に一度目を通すことができただけ。
あの子の部屋に行けば書き記した文章が沢山あることは分かっていたけれど、どうしても手に取ることができなかった。
何年もずっと。
それでもつい先日、読めるかもしれないと思える日があって、一編の随筆を読んでみた。
原稿用紙に手書きというのがあの子のこだわり。
よどみない文章と、久しぶりに見る懐かしい金釘流の文字。
内容は、大学に入ってからのことが詳細に記されていて
「そんなことを思っていたなんて...」
思いもよらないことが書かれている。
今になって分かることもあるのだ。
読んだ後の気持ちは複雑だった。
もう少し時期が早かったら、自責の念に苛まれたかも知れない。
でも今は、あの子の本当の気持ちが分かって良かったと思っている。
そして、あの子が一生懸命書いた文章をこれからも大切に読んでいくつもりでいる。
だからまだ少しの間、こちらの世界に生きていよう。
そう思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「自死遺族の集い 夕なぎ」2024年の予定
開催日: 2024年6月16日 (日)※第3日曜日
時間: PM 12:30~2:30
場所: パレット柏 ミーティングルーム A
(Day Oneタワー3階)
JR柏駅南口より3分
対象の方: 自死でお子さんを喪った方
参加方法: 予約不要です。
お気持ちが向いたら直接ご参加ください。
会費: 300円(会場費・お菓子代)
(お飲み物は各自ご持参ください)
8月の予定
2024年8月18日(日)ミーティングルーム A
※8月も3週目の日曜日になります。
(今のところ隔月としておりますが、皆さんの意向に従い変更になることがあります)