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最初こそ始まりは良いものとは言えなかったけれど



何度も季節の変わり目を共にし、



記憶のアルバムが増えていくたび、



呼び方が変わり、



お互いの好きなものを好きになって、



そりゃまぁ好きなだけじゃない彼女の



良いところも悪いところも



時に知ってしまったりして、



でもまぁ茂木さんに



「随分、尻に敷かれてんじゃん?笑」



と馬鹿にされるくらいには彼女を溺愛していたり。



悔しいし、いまだに信じられないけど、



ここは潔く認めるしかない。



「もしかしたら出会っちゃったかもしんない」



運命の人ってやつに。



茂木さんは驚きがちに



でも数秒後には嬉しそうに



「よかったじゃん」と口にする。



異質で少し間抜けな出会い方をしたあの日から



もう気づけば3年と言う年月を共にし、



つい最近、意識し始めるようになった事。



周りの結婚ラッシュが続いて、



もうそろそろだよな、なんて



街を通るたび、少しだけ長めに目で追ってしまう、



それは結婚指輪のお店。



日本で結婚するのは



まだまだ現実的じゃないけれど、



海外で式をあげるくらいなら無理な話ではなく、



ゆうちゃんはこの前、



ハワイに行ってみたいって言ってったっけとか



ダイアモンドに憧れるなんて言ってたよなって



思い出すたび、口角が上がって、



OKしてもらえるかな、



そんな不安がないのはきっと



付き合って半年もしないうちにした



あの時の会話のおかげ。



な「ねぇ、ゆいりちゃん


これ半年記念にどうぞ」


ゆ「えっ、いいの??」


な「もちろん、これからもよろしくお願いします」


ゆ「こちらこそ」



2人して頭を下げあって、少しシュールな絵面。



最初は結婚なんて、意識していなくて、



ただ一緒に見た映画で



主人公の女性がつけていた指輪に



ゆ「ゴールドリングが似合う女性になりたかった」



なんてふとコメントした彼女がキッカケで。



すごく似合ってるよって伝えると、



少し照れたように



ゆ「なんか結婚指輪みたい//」



なんて冗談半分で言ってくれたりして、



そりゃもう効き目は抜群。



その瞬間、膝をついて、



プロポーズしてやろうかと思うくらいに



胸を鷲掴みに。



そう言われてしまえばもう



な「もう少し時間とお金に余裕が出来たら


もっと良い指輪でプロポーズしますね」



そんな模範解答を口にするしかなく、



自分でも胸焼けしてしまうような



ちょっぴり恥ずかしいセリフを



超えてくるかのように、



ゆ「良い指輪なんかなくても、


私はなぁと結婚するよ」



なんてそれはちょっと



な「反則//」



犯罪級のあざとさを披露してくれちゃったり。



その頃からだったな。



もっと働いて、もっともっと逞しくなって、



彼女が今よりもっと



この人に人生を任せたいと思えるような人に



なってみたいと思ったのは。



だからあの日、



自分の人生が脅かされた日、



きっと言葉には表せないくらいに怖くなったんだ。



彼女がいつか私を失う運命が



鮮明に見えてしまったから。



いつかいなくなるのなら、



私が彼女の隣にいる資格があるんだろうかと



止まらず走れば、



一生懸命、働けば、



この先どんな未来も彼女と乗り越えていけると



信じて止まなかったあの感情が



私の中で一気に音を立てながら崩れ始める。