side N

 

 

『私は、よくない、、』

 

 

聞こえていたのに聞こえないふりをした。

 

 

いつもなら彼女の言葉を一語一句聞き落とさないのに

 

 

わざと、えっ、て聞き直した。

 

 

弱々しく呟いた彼女は

 

 

私が絶対に見たくなかった彼女の表情で

 

 

これほどにないくらいの罪悪感に駆られながら

 

 

私はそっと目を逸らす。

 

 

すると彼女はもうこれでもかと言うほど大きな声で

 

 

痛い視線を向けるクラスメイト達に知らしめるように

 

 

ゆ「私は良くないよ!

 

なぁちゃんと居られないの私は全然大丈夫じゃないっ!!」

 

 

なんて必死になって、

 

 

顔を真っ赤にしながら言ってくれたりして。

 

 

あぁ、バラの香りがする。

 

 

甘くて柔らかい、なのに危険なそんな香り。

 

 

あぁ、棘がある。

 

 

目に入れても痛くなさそうな彼女から

 

 

触れただけで怪我してしまいそうなほどの

 

 

それは棘。

 

 

守るようにその棘で私を包もうとしてくれる彼女は

 

 

不思議で、魅惑的で、少し危なっかしい

 

 

限り無く優しい人。

 

 

そんな彼女をいずれ傷つける事になるのなら、

 

 

私は彼女の隣に居るべきじゃないんだと

 

 

そう本気で思っていたのに

 

 

彼女の悔しそうな表情を見た瞬間、

 

 

その背中を追いかけたくて、

 

 

追いつきたくて、

 

 

いっそのこと手を引っ張って

 

 

どこか遠くに連れて行ってしまいたかった。

 

 

も「ありゃりゃ、こりゃ珍しい

 

ゆうちゃんがこんなにキレるなんて、、」

 

 

取り残された教室に

 

 

漂うただならない空気。

 

 

背中を刺す視線が痛いはずなのに

 

 

涙が出てきそうな理由はまた別のところにあった。

 

 

も「まぁ、ちょっと話そうぜ、岡田さん」

 

 

そう言って連れてこられたのは

 

 

私の気分とは全く合わない

 

 

快晴の空が見える屋上だったりして。

 

 

めっちゃ天気いい〜、なんて能天気な彼女に

 

 

緊張の糸が自然と緩んでいく。

 

 

も「2人がどうゆう関係か、とか

 

そういう詳しいことはあんま知らないんだけどさ、、

 

ゆいりがあんな怒るのって珍しいから

 

だからゆいりを傷つける人は友達として認められない」

 

 

笑っているのに圧があって、

 

 

優しい言葉遣いなのに、優しくはない。

 

 

あぁ、彼女はこんなにも愛されてるんだなって。

 

 

きっと無意識に人を寄せ付けてしまう魅力と

 

 

誰であろうと受け入れる包容力に

 

 

惹かれた人は私だけじゃない。

 

 

そう思うだけで、複雑で、でもそれが彼女のいいところで

 

 

言えない、気づかれちゃいけない

 

 

それは私の黒い感情の渦。

 

 

も「でもさ、岡田さんもなんか思うことがあんでしょ?

 

クラスメイトの視線とか、ゆいりの人気とか、、」

 

 

な「えっと、、」

 

 

も「分かるよ、あたし

 

だってあたしも思うもん、私恋人がいるんだけどさ、

 

その子は頭も良くて、みんなに好かれて、

 

あいつが完璧じゃないってわかってはいても

 

おんちゃんに見合う人なれたらなって、、、

 

コソコソ後ろで話し声が聞こえるたび、

 

もうなんつーか世界中の全員に好かれるような人間なれたらって

 

思うんだけどさ、、、、そんなの結局無理だし」

 

 

見透かしたかのような、

 

 

いやきっと全部見透かされてたんだろうな。

 

 

私の中にある彼女に抱いてしまったこの気持ちも

 

 

そのくせして臆病な私にも。

 

 

きっと全部。

 

 

だからもう私は一目散に走り出す。

 

 

一度も学校を抜け出したことなどない私が

 

 

校舎に背を向け、茂木さんに貰ったあの言葉を背負いながら、

 

 

「だから思うんだよ、

 

一番好かれたい人に全力で好かれればいいだけだって」

 

 

それは私を突き動かす魔法の言葉。