も「最近ゆうちゃん変じゃね??」

 

 

あ「ねぇ〜!ずっとボーッとしてるし」

 

 

それは朝なのにも関わらず

 

 

すでに風が生暖かい真夏の日。

 

 

学校への登校路。

 

 

いつもであれば親友2人と馬鹿話に花を咲かせているこの時間に

 

 

私はこれから学校で顔を合わせるであろう

 

 

彼女のことしか考えていなかった。

 

 

あ「ねぇ、ゆいり!!

 

聞いてる??」

 

 

なんて少し怒り気味のあやなの叫び声が漸く私を現実世界へと引き戻し、

 

 

うん、聞いてるよ、なんて見え透いた嘘をついて、

 

 

私は歩くスピードを上げた。

 

 

 

 

まだ人がまばらな教室。

 

 

ムンムンと蒸し暑いこの部屋で

 

 

タトゥーを隠すために一人だけ長袖を腕に通している彼女は

 

 

正直ちょっと浮いていたりする。

 

 

授業が始まっているわけでもないのに

 

 

もう教材を広げ、熱心に勉強しているところとか

 

 

イヤホンをつけて完全に自分の世界に入っているところとか

 

 

心做しか人を寄せ付けないためにわざとやっているようにも見える。

 

 

そんな彼女の秘密を私は知っていて、

 

 

そんな彼女の笑った顔が

 

 

時間をも止める魔法のようなことを

 

 

みんなは知らないんだなって

 

 

知ってほしいけど、絶対に知られたくない

 

 

それは少し複雑でこんがらがった、

 

 

でも紛れもない私の本音。

 

 

隣でガヤガヤ騒がしい友人たちは一旦無視し、

 

 

私は一目散、

 

 

彼女が目に入った瞬間から

 

 

待ちわびた彼女めがけて歩き出す。

 

 

ゆ「なぁちゃん!おっはよ」

 

 

肩をポンっと叩きながら、

 

 

自分でもわかるくらい弾んだ声を出した私に

 

 

彼女は顔を上げ、片耳のイヤホンを外す。

 

 

な「あっ、おはよう、村山さん」

 

 

あれ、違う。

 

 

いや、違うことないんだけど何かが違う。

 

 

丁寧に挨拶するところとか

 

 

少し微笑みかけてくれてるところとか

 

 

いつもの”岡田さん“なことに変わりはないんだけど

 

 

なぁちゃんって呼んでって言ってくれた、

 

 

ゆうちゃんって呼んでくれた昨日とは

 

 

また全然違う、いつもの堅物。

 

 

おまけに村山さんなんて距離のある呼び方に

 

 

まるで越えられない壁を容赦なく置かれたような

 

 

そんなあまりにも惨めな気分。

 

 

そのくせ、瞳だけはあの日私が惚れ込んだ

 

 

透き通り過ぎた色をしているのが

 

 

腹立たしくて、もどかしくて、

 

 

ゆ「ねぇ、ゆうちゃんって呼んでくれないの?」

 

 

精一杯の無駄足掻き。

 

 

な「えっ、でも」

 

 

ゆ「なぁちゃんっ、、」

 

 

俯いてしまった彼女と目を合わせるために

 

 

しゃがみ込んだ私を見下ろす彼女は

 

 

何かに怯えているような、

 

 

何かを堪えているような

 

 

見たことないそれは彼女の表情で、

 

 

ゆ「ね、ねぇ」

 

 

な「ダメだよ、ゆうちゃんは、、

 

私とは違うから、、、」

 

 

ゆ「ねぇ、どう言う事?」

 

 

な「私なんかが、、

 

ゆうちゃんと喋ったら迷惑かけちゃうよ、

 

私は1人で大丈夫だから」

 

 

あぁ、そう言うことかって

 

 

彼女に夢中で全く気に留めていなかった視線が

 

 

私の背中を、彼女の背中を、音を立て、突き刺す。

 

 

嫉妬とか、疑問とか、

 

 

様々な意味が含まれたそれらは

 

 

私たちをゆっくりと、でも確実に蝕んでいた。

 

 

ゆ「私は、よくない、、」

 

 

な「えっ?」

 

 

込み上がる、説明しきれない感情達。

 

 

ゆ「私は良くないよ!

 

なぁちゃんと居られないの

 

私は全然大丈夫じゃないっ!!」

 

 

な「ごめん、ゆうちゃん」

 

 

あぁ申し訳なさそうなその顔。

 

 

きっとそれはなぁちゃんの癖だよね。

 

 

ゆ「もうなぁちゃんなんか知らないっ!」

 

 

そして感情で動くのは私の悪い癖。

 

 

教室を飛び出した私に

 

 

そんな心配そうな顔するんなら、

 

 

一緒に堂々としておこうよって

 

 

いっそのことこのままどこかに手を引いて

 

 

連れていってくれればいいのにって

 

 

叫びそうになるのを必死に堪え、

 

 

目尻に涙を溜めた、

 

 

それは早朝の学校での出来事。