side Y

 

 

これは果たして人間が出来うる動きなのだろうか?

 

 

そう考えてしまうほどに大胆かつ繊細な動きをする彼女。

 

 

それに負けじと目にも止まらぬ速さで彼女の攻撃を交わす難波組総長。

 

 

ハラハラする胸の中。

 

 

手を伸ばしてしまいそうになる私を茂木さんは咄嗟に掴んだ。

 

 

も「だめだよ、ゆいりちゃん

 

あんなのに飛び込んだら死んじゃうよ」

 

 

そう言って私の目の前にずっしり構えた彼女は

 

 

そこから絶対に動こうとはしない。

 

 

な「あ’’ぁ、、はぁっ、はぁっ」

 

 

男が隙を突いてなぁの足にナイフを沿わせる、

 

 

その切り傷から血が吹き出すと、

 

 

彼女は苦しそうな声を上げた。

 

 

頭「なんだ、凄腕の殺し屋はこんなものか?」

 

 

煽るような深い声に、

 

 

背中からでも感じられる茂木の深い怒り。

 

 

震える拳を見て、

 

 

あぁこの人も必死に我慢しているんだって、

 

 

邪魔しちゃいけないって、

 

 

すべてを噛み締めているんだと理解した。

 

 

それでも、状況は劣勢なことには変わりなく。

 

 

片足を切られたことで遅くなったスピードに

 

 

彼女の体はどんどんと切り傷を貰い、

 

 

血でまみれていった。

 

 

ゆ「なぁっ、、、、」

 

 

だめ、まだまだ、これからでしょ?

 

 

ホントは演技だよなんて、笑ってほしいのに、

 

 

力なく膝をついた彼女に私の頬には涙が伝った。

 

 

な「知ってますか?悪役が女の子に好かれる理由、、」

 

 

息を切らしていて、随分と疲れ切った声。

 

 

それでも私の父親をまっすぐに貫き通す変わりなき瞳。

 

 

点滅する彼女の黒が、

 

 

その瞬間、バチッと色を定め、私の目を奪う。

 

 

黒いくせに鈍く光るあの野心が

 

 

この絶望的な状況でも相手をあざ笑うかのように存在していて。

 

 

出会ったときと全く同じ

 

 

私が目を引かれたあの夜の、

 

 

それはほんのり甘い蝶。

 

 

な「あんたら見掛け倒しの正義は自分を守るため人を敵に回すけど、

 

悪は一人を守るために世界だって敵に回すんです」

 

 

目の前の総長の胸元から血しぶきが吹き出す。

 

 

いつの間にか切れていたそれに男は随分と驚きの表情を見せ、

 

 

バランスを保とうとしながらなぁちゃんに斬りかかろうとする。

 

 

な「なのであなた達を敵とみなします」

 

 

なんて憎たらしい顔よろしく、

 

 

そういって微笑んだりして

 

 

交差した後、彼女たちは互いに背中を向け合い。

 

 

数秒の沈黙の後、鈍い音と共に倒れ込んだのは、

 

 

なぁではなく、総長の方だった。

 

 

首からの大量の出血がジワーッと時間をかけて、

 

 

高級なカーペットへと広がっていく。

 

 

その光景を見て、瞳孔を揺らす父親が今はなんだかとても情けなく見えた。

 

 

バタン、、

 

 

ゆ「なぁ!、、、」

 

 

その光景を見て、安堵したかのように倒れ込んだ彼女に駆け寄る。

 

 

横たわった血まみれの彼女の頭を持ち上げ、

 

 

そっと膝に乗せると、

 

 

今までにはないくらいに

 

 

スッキリしたような、幸せそうな顔で

 

 

彼女は今、笑っていた。