キスをあげるよ。

 

 

だって今更好きなんて言っても、どうせ信じてくれないんでしょ?

 

 

あいつのクシャッとした笑顔も

 

 

優しい声も、

 

 

早くなるドキドキも

 

 

ホントは全部、最初から気づいてたの。

 

 

初恋サイダー

〜「好き」なんて言葉よりキキメあるでしょ?〜

 

 

 

それは新学期、

 

 

女子校のうちでは必ずと行っていいほど起こる恒例行事。

 

 

”ねぇ、めっちゃイケメンじゃない?”

 

 

”うん、超絶美形!”

 

 

”あれが巷で言うイケメン女子ってやつか”

 

 

廊下を歩いていると聞こえる声。

 

 

それに新入生たちが加わったんじゃ、もう嫌でも聞こえてきてしまう内容に

 

 

私は大きくため息をつく。

 

 

も「ひゃ~なぁちゃんは今日も今日とて人気でございますなぁ」

 

 

ゆ「ホント、何回この光景見ればいいんだって話」

 

 

なんて愚痴をこぼす私に、

 

 

ガッハッハと豪快に笑い声を溢す茂木。

 

 

そんな彼女を横目に私は周りを見渡しながら、

 

 

あぁ、来る、と独り言をこぼす。

 

 

”彩希〜”

 

 

その数秒後に後ろから名前を呼ばれ、

 

 

はいはい、いつものこのパターンねと苦笑いしながら、

 

 

茂木と私は足を止め、振り返る。

 

 

”彩希ってさ、なぁちゃんと幼馴染よね?”

 

 

聞かれたことに、でしょうね、と言ってしまいそうになるほど

 

 

想定内の質問に私は昨年と同じ、

 

 

きっと一語一句違いはないだろう言葉を

 

 

まるでマシンガンかのように、

 

 

ゆ「そうですけど?

 

幼稚園の頃からずっと滅入るほどの腐れ縁の幼馴染ですけど?

 

でも私はあいつのこと好きじゃないし、仲良くもないし、

 

あの’王子様’と仲良くなりたいならセルフでどうぞ!」

 

 

言い切ると、私は大きく息を吸う。

 

 

圧倒されたような目の前のクラスメイトにプイッと背中を向け、

 

 

ごめんね〜なんて言ってるもぎを置いて、

 

 

私は廊下を歩き始める。

 

 

駆け足で追いついてきた茂木に

 

 

も「出ました〜

 

ゆうちゃんの一触即発バズーカ」

 

 

なんて変な名前をつけられてからかわれるもんだから

 

 

彼女を横目でキッと睨むと、

 

 

すぐに大人しくなるのを見ながら、思うのだった。

 

 

いつまでこんなことが続くのだろうかと。

 

 

な「あの、これ生徒会室に忘れてましたよ、、」

 

 

噂をすればとはまさにこのこと。

 

 

いつの間にか背後に現れた彼女は冷たく、色のない目で

 

 

そう言いながら、その手には私の真っ赤な筆箱を持っていた。

 

 

な「いっつもボーッとしてるから、会長にも怒られるんですよ」

 

 

なんて余計な一言よろしく、

 

 

呆れた顔で笑う彼女にもう頭が爆発しそうになるのを

 

 

なんとか既の所で押しこらえて、

 

 

私はわざとらしく微笑む。

 

 

ゆ「ありがとね、副会長さん」

 

 

そう言うと彼女は火種を返し、

 

 

ざわざわと彼女のせいで騒がしい人混みの中を通っていく。

 

 

もらった筆箱と彼女の背中を交互に見ながら、

 

 

ゆ「何あいつ」

 

 

私は独り言を零す。