な「ゆいりちゃん、私行ぎたくないよぉ〜」

 

 

前みたいに目の前で泣きじゃくる彼女は

 

 

私の膝にしがみつきながら、そう唸った。

 

 

奈々父「ごめんね〜、ゆいりちゃん、

 

奈々が最後に絶対会いたいって聞かなくて、

 

こうなるの分かってたからダメっていたんだけど、

 

結局折れて連れてきちゃった」

 

 

ゆ「いえ、全然

 

私もなぁちゃんと会って、バイバイしたかったですから」

 

 

そう伝えると、申し訳なさそうに微笑んだおじさん。

 

 

おじさんのお仕事の都合で海外へと引っ越しが決まったなぁちゃん。

 

 

最後の挨拶にと、わざわざ来てくれたのはいいものの

 

 

さっきからずっとこの調子でおじさんはもう呆れ気味だった。

 

 

そんなおじさんを見てなのか

 

 

微動だにしないなぁちゃんの目の前に

 

 

私はしゃがみ込む。

 

 

ゆ「なぁちゃん!」

 

 

そして満面の笑みで彼女を呼ぶ。

 

 

な「やだ、行かないもん」

 

 

私がなんて言うかを予想したように彼女はパシャリと扉を閉めるようにそう言った。

 

 

そんな彼女に微笑む。

 

 

ゆ「また大人になって、なぁちゃんが日本に帰ってきたら一緒に遊んでね?」

 

 

私の言葉に俯くなぁちゃん、

 

 

な「絶対?約束?」

 

 

腑に落ちていないような声。

 

 

ゆ「うん、約束、ね?」

 

 

そう言うと同時、小指を出すと、私よりも少し小さめなそれが

 

 

私の小指をキュッと結んだ。

 

 

奈々父「じゃあ、そろそろ行くね

 

ほら奈々、ゆいりちゃんにちゃんとお礼言うんだぞ」

 

 

な「ゆうちゃん、ありがとう」

 

 

ゆ「うん!またね!」

 

 

手を振ると、小さく振り返してくれた。

 

 

相当、後ろ髪を引かれてそうな彼女だけれど、

 

 

最後は素直におじさんに手を引かれ、車に入っていった。

 

 

ゆ「これからは静かになるなぁ〜」

 

 

なんて小さく呟いて、空を見渡す。

 

 

 

 

 

 

それから12年経った今、私はあの日のように空を見上げていた。

 
 
変わったのは社会人になったことくらいで、
 
 
驚くほど多忙な日々に
 
 
彼女の存在はどんどん私の記憶の奥底に押し込まれていった。
 
 
それでも鈍く光っていた、彼女という存在は
 
 
私も知らないところで私の胸にぽっかり穴を開けていたのだった。