山里は秋こそことにわびしけれ鹿の鳴く音に目を覚ましつつ
古今和歌集 巻第四 秋歌上 214
~ 壬生忠岑
= 「是貞の親主の家の歌合のうた」
→ 宇多天皇の兄である是貞親王の家で行なわれた歌合
読み・・・ やまさ(ざ)とは あきこそことに わびしけれ しかのなくねに めをさましつつ
簡単現代語訳・・・ 山里での秋は、殊更侘しく感じられる。夜になれば、鹿の鳴く声に目を覚ましていまい、 (そうすると、より孤独を感じ、やりきれないほどの侘しい気持ちになり) 眠れなくなるのだ。(そういう夜が続いている)
鹿の鳴き声・・・
* 秋には、雄の鹿が雌を求めて鳴くとされている。
* 「万葉集」→ 妻を呼ぶ声と見倣し、歌から寂しさを感じ取っていた。
* 「古今和歌集」→ 鹿の声から、そのまま秋の悲しみを歌から感じ取るようになった。
① 山の中にある人里。山の中の村。
② 山里にある別荘。山荘。
・ 文の内容を強調したり、疑問を表したりする。
( 万葉集よりも、古今和歌集や新古今和歌集で多く使われている文法 )
「わびし」が思うようにならない、やりきれないといった失意の念が根底に有る。
「さびし」は、何かが失われて物足りない、活気がなくなり、寂(さび)れているという欠如感が根底に有る。
(覚まし)つつ・・・
① < 反復 > 何度も ~ ては。
② < 継続 > ~ し続けて。(ずっと) ~していて。
③ < 複数動作の並行 > ~しながら。~する一方で。
④ < 複数主語の動作の並行 > みんな~ながら。それぞれが~して。
⑤ < 逆接 > ~ながらも。~にもかかわらず。
⑥ < 単純な接続 > ~て。【接続助詞】「て」と同じ用法。
⑦ < 動作の継続を詠嘆的に表す > しきりに~していることよ。
・ 和歌の末尾に用いられ、「つつ止め」と言われる。
「田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」~ 百人一首、山部赤人
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「田子の浦ゆうち出でてみれば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける」~ 万葉集、巻三、雑歌、318、山部赤人
壬生忠岑・・・ みぶのただみね
* 生年月日・・・ 860年 (貞観2) 頃
* 死 没 年・・・ 920年 (延喜20) 頃
* 平安時代、前期~中期の歌人。
* 三十六歌仙の1人。
三十六歌仙とは・・・
平安時代中期の公卿、藤原公任(ふじわらのきんとう)≪966~1041年≫が著した【三十六人撰】に紹介されている、優れた三十六人の和歌の名人のこと。