君待つとわが恋ひをればわが屋戸の簾動かし秋の風吹く


                    万葉集  巻四  相聞歌  488
                       ~  額田王 (ぬかたのおほ(お)きみ)
【 題詞 】 

額田王  (ぬかたのおほきみ) の近江天皇  (あふみすめらめみこと)  を思 (しの) ひて作れる歌一首。

( 額田王が天智天皇を恋慕って作った歌一首 )


原文君待登 我戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹


読み・・・ きみまつと  わがこひ()をれば  わがやどの  すだれうごかし  あきのかぜふく


簡単現代語訳・・・ 貴方を待って、わたしくしが恋しく思っていますと、家の戸口の簾を動かし秋の風が吹いて(揺れて)います。




ピンク薔薇   おれーば (ラ行変格活用・・・居りの 已然形)  、 おーり  
①  座っている。腰を下ろしている。
②  いる。存在する。→  こちらの意味。

ピンク薔薇  やーど  ・・・屋戸、宿

①  家、家屋。

②  戸。戸口。入り口。万葉集 488、「君待つとわが恋ひをれば・・・」→  こちらの意味。




秋の夜長に、いつまで経っても来ない「天智天皇(大津第38代の天皇)」の訪れを待ちわび、微かな簾の音に一瞬心をときめかせるが、それが風だと分かり嘆いている様。
恋しい人を待つ、女性の微妙な心情の動きを詠んだ歌とされる。
( 女性として盛りを過ぎた頃の歌だという )

当時は、夫が妻の元へ通う通い婚。
「 妻問い (つまどひ(い))  」と言う。



クローバー  近江天皇 (あふみすめらめみこと) = 天智天皇 (てんぢてんのう) = 中大兄皇子 (なかのおおえのおうじ)
クローバー  近江大津宮を帝居にしていたことに由来。

ピンク音符【 題詞(だいし) 】→ 万葉集、和歌の前書き。
ブルー音符【 詞書(ことばがき) 】→ 万葉集以外の、和歌の前書き。




 額田王・・・ ( ぬかたのおほ(お)きみ ) 


* 生    年・・・  637年 頃  

* 死没年・・・  690年 頃

* 父・・・ 鏡王 ( かがみのおう )   

* 母・・・ 不明


* 飛鳥時代、女流歌人。

* 「万葉集第一期」


*  初めに、大海人皇子(おおあまのおうじ) (天武天皇) の妻となり、十市皇女が生まれた。

その後、大海人皇子 (天武天皇) の兄である、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ) (天智天皇) の寵愛を受けたとされるが確証はない。

「万葉集」に収められた歌2首が、証拠というが果たして・・・?

・ 茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(巻1、20 → 額田王)

・ 紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも(巻1、21 → 大海人皇子(天武天皇))


額田王をめぐっての天武天皇と天智天皇の確執が、「 壬申の乱 」(672年) の遠因という説もある。