時は近未来。ここは太平洋に浮かぶ小さな島、ワイマール島。
「授業おわりーッ!」
終了のベルと同時に、インラインスケートで教室から飛び出してきたのはミュウ。勉強よりスポーツと音楽が大好きな11歳の女の子だ。
「フライングだぞ!」
クラスメイトのエータとベータが慌ててミュウを追いかける。
「家まで競争だよっ」
ミュウはへへーんと笑いながら、イヤホンを耳にあて、スピードを上げる。お気に入りの音楽を聴きながらR2BEATごっこをするのが、ミュウの最近のマイブームだ。

R2BEATは、音楽にのってキックやターンをくり出しながら、インラインスケートで走るレース競技。リズムの心地よさとレースのスピードを同時に味わう爽快感が人気を呼び、新時代のスポーツとして人気を博している。そのR2BEATの最初の競技場として建設されたのが、島の中心にある「ワイマールパーク」だ。オープンと共に莫大な賞金をかけた競技会が開催され、栄光を夢見るプレイヤーたちが続々と集まっていた。
街中にもスケート用に整備された歩道が張り巡らされ、日常の移動にもスケートを使う事が多い。学校の行き帰りのコースは、ミュウにとっては慣れたもの。うまくリズムに合わせて滑れると、気分はサイコー!おねえちゃんはこんな時、羽が生えたみたいって言ってたっけ。だけどミュウは、どんなにうまくなっても競技会に参加するつもりはない。おねえちゃんがいなくなったあの日から…。
今日もミュウが一番乗り!そう思っていると、誰かがすっとミュウを追い越していった。青い服に身をつつんだ年上の少女だ。このあたりでミュウより早い人なんて滅多にいないのに。負けじとスピードを上げてついていくと、ミュウは不思議な事に気づいた。あの人の滑り方、おねえちゃんによく似てる。ターンする時、ちょっと重心が左に傾くところがそっくりだ。あ、ほらまた。なんだか、おねえちゃんの後ろを滑っていた頃の事を思い出しちゃう。
「ミュウ、危ない!」
後ろからエータが叫ぶ。
「え?……わ、わっ!」
ぼんやりしていたミュウは、工事現場の柵に突進して派手にひっくり返ってしまった。
「いてて、今朝までこんなとこ工事してなかったのに」
お尻をさすっていると、先に行ってしまったと思っていた少女がすっと手を差し出した。
「あ、ありがと…」
手をとったミュウは、一瞬ひやっとする。冷たい手…。
「あの、」
「気をつけて」
少女は静かに微笑むと、声をかける間もなく、すぐに走って行ってしまった。
「ミュウ、大丈夫だったか?」
「何ぼんやりしてんだよ」
追いついたエータたちは、見る見るうちに遠ざかっていく少女に感心した声をあげる。
「はっやー」
「R2Bの選手かな?あっちは競技場だし」
「やっぱり、おねえちゃんにそっくり…」
ミュウは手をぎゅっと握り締め、ぽつんと呟いた。
それが、ミュウと少女の最初の出会いだった。