2人のコンビネーション…音夜と唯香
     ライバルからそして…④

 

 

 

「敦賀君。君は京子さんとどれだけの時間を過ごしてきたんだ? 訊いていると、彼女の幼い頃まで知っているようだが?」
「ええ、ですがそれを彼女に伝えられたのは最近です」
 監督もその事にも驚いた。
「君が先に気付き、彼女には秘密にしていたのかね」
「それは…少し事情がありまして、思いとは別に伝えるのは逆に奥の手を見せるような事になってしまうと、話せませんでした」
「敦賀君にとっては、切り札を出して口説き落とすのはイヤだった…と言う事かね?」
「そうですね。子供の頃にほんの一週間程と、今の出会いは彼女が芸能界に飛び込んできた16歳、俺は二十歳で。子供の頃はそれから10年程前ですから不思議でした。こんな巡り合わせもあるのかと、昔出会った場所とは離れた東京で、芸能界という特殊な場所で、予告なく神が気まぐれを起こしたのかと思いました」
 蓮が苦笑すると監督は優しい笑みを浮かべた。
「君らの為に神様が気まぐれになったのかも知れんな。奇跡のような出会いを用意してくれた訳だ」
「はい。でも俺も彼女も流されて出会えた訳でもないです」
 蓮は静かに言った。苦しんだ故国での時間があり、彼女にも芸能界への扉は閉じられていたが、開いた目の前には俺が立っていたのだから不思議なものだ。

 

「流されるだけの出会いでないなら、神が出会わせたのではなく、君達の力が引き寄せ合ったのではないか?」
「引き寄せ合う?」
「赤い糸で小指を結び合わせて出会える約束を魂がしても、子供の君達には見えやしない。再会してやっとその存在を思い知った」
「魂が先に約束をしたと?」
「2人の心には見えなくとも、一つの魂を分けて地上で出会うことを試させるということも聞いたことがあるな」
「一つの魂…」
「ロマンチックだろう?」
「そうですね…」
 監督は楽しそうに言うと、蓮も頷いていた。
「そして、再会と同時に人生を撚り合わせるように離れがたくして糸が紐になり、君と彼女の運命が再スタートした。そして君と寄り添い付き合う事で、その愛が本物であればこそ…彼女をより女性らしくする。それはドラマの中での唯香をより魅力的にもする。君と彼女の出会いは君を強くもしたし、彼女の魅力を花開く素晴らしい女性にも成長させた。そんな相手は一生に1人巡り逢う事が出来たなら…それは既に奇跡の出会いだ」
「そうですね。彼女がいたから今の俺がいる。生かされている」

 

 救われたという一言では語れない…キョーコという存在。
 だがその一方で、彼女にも抱えるものがある。
 母親は今更だが少しはマシになった。アイツは自分の気持ちを読み違えたせいだ。

 

「その傷を治す強さで立ち上がる彼女を、俺は見てみたいね」
「ええ。彼女は自分を作りながら成長したいと…人として、女性として前を見て成長しています。ただ、無理はさせたくありません」
「彼女自身が望んでもか?」
「…自分が傷付くよりもキツいです。人の為なら無理をするのが彼女であり、その優しさが怖くなります」
「それは君が彼女を愛するが故だ」
「皮膚を裂き、骨を折ろうと、人間の身体なら手当次第で治ります。でも…彼女の心の傷の方が深ければ、抉る傷の深さは見た目よりも深くずっと血を流す…」
「…君もまだ、大きな傷を心に持っているのか?」
 蓮の言葉には、まだ傷が癒えていない痛みを感じた。そして蓮は、監督に言葉では答えずに、少しだけ目を伏せる事で肯定した。
「子供の頃の心の方が柔らかい。必死に鎧を着ても歪みの形にでるものです。心を閉ざして、大切な友人も亡くし、生まれ変わる為に此処に来ました。そしてキョーコに出会えた。神は時に救いをくれると知りました。でもその痛みの全てを忘れるには時間が掛かる。それに忘れてならないこともあります。そして見えないからこそ難しい…。それは彼女の傷も同じです」

 

 監督は蓮の神という言い方が、日本的な神々と違うと感じた。
 それに『此処に来た』と言う事は、外国から? それならば今の姿は本物では無いという事に?
 それでもお互いだけと思い合えたなら、人種の違いなどはどうでもいい、役者としても敦賀蓮であれば良い事だ。

 

「2人が救い合って傷を治せばいい。約束のない偶然の再会の方が、魂が引き寄せ撚り合わせた方が、本物の赤い糸だ」
「偶然ではなく…俺には必然です」
「必然? 偶然よりも運命的だな」
「そうですね。彼女に救われなければ此処にいることさえも出来ない救いを…彼女から受けています。助けられたモノは大き過ぎる程で、だから俺は彼女に返したい。癒やしてあげたい。そして共に生きていきたい。俺には彼女だけだと…」
「なる程。敦賀蓮にとっては単なる恋ではなく、必然の運命の女神になる訳か」
 蓮は静かで優しい笑みを浮かべた。

 

「運命の女神であり、御守りでもあります」
 2人の事をぼかしながらでも、聞き上手な監督にだが話しすぎた気もしたが、穏やかな笑みに考え過ぎかとも思った。
「流石の敦賀蓮も、運命の恋人に出会うと詩人になるな」
「詩人ですか?」
 クスッと笑ってみても、今話した言葉はそうかも知れないと思った。
「”恋は人を詩人にする”という言葉もある。今までと違うと感じた事は、心の中で暖めてみれば良い。本物ならばいつまでも心を暖めて…そして離す事が出来ない優しい存在になる。心の中の一番の存在にな」

 

「もう既に唯一の存在です」
 蓮にとってもキョーコにも、互いというコンビだ。
「君は役者として、ドラマなどの仲間と話しはするが、本当に腹を割って話すことは少ない。ベールを挟んで話すような、本音を何処か隠し持っている。それが京子さんというクッションが入ると、本音の笑顔も垣間見えて、ベールが動き君の心が零れ出る。君が自分を変えられる…本当の自分をさらけ出せる一番の存在だ」

 

「…そうですね」
 蓮…久遠にとっては、心を開けるのはほんの一握りの人しかいなかった。その中でも兄のように心配をして力づけてくれた、リックの存在は大きかった。
 自分の存在を否定するようなイジメの中で、リックだけが心を支えてくれた時期もあったが、そのリックの声さえ聞こえなくなっていった時、リックそのものを失ってしまった。
 『立て!』と、そう言ってくれたリック自身を失い、光も支えも失ったと思った目の前にボスの手があり、パスポート一つで日本に来ることが、これ程の必然を引き寄せる運命への光だと思わなかった。俺自身も努力を厭わず走り続けたが、そこに現れた君は俺への最高のプレゼントだと思えた。
「敦賀君。君は話の流れはあったが、これまでの事を話せるようになったのは、君の中で許せるものや、澱のように固まった苦しいものを洗い流せてきたからじゃないかと思うがどうかな?」
「……」
「私は聞き上手とよく言われるが、君が心を開かなければ話す事はないはずだ。心を傾け話す一番は京子さんだろうが、君自身の中で蓋をした事まで話せるようになったなら、心の中のわだかまりが幾らか解けた証拠だと思うな。年齢よりも苦労が多くとも、共に生きていける人が居てくれるだけで苦しみも和らぐ」

 

 監督の言葉に蓮はリックの時計を見た。
 自らの戒めとして…許される事のない手錠のように利き腕の右に填めた。手を伸ばす時に使う右腕なら、直ぐに我に返れるからだ。でもそれも、グアムでクオンとして彼女に誓いのキスをしてから、左腕に変えた。少しだけリックに頼る事なく、自分の手で前に進む事を決めたからだ。針の止まったままの時計でも、リックの声は勇気と戒めの両方をくれる。
「立て!」と心を強く持てるように、前に進めと背中を押してくれる。そして俺のせいで止まってしまった時計と同じ事を、リックと同じような人生の時を止めてはいけないと、感情に流されてはカインの時と同じ様になってしまってはリックに合わせる顔がない。
 あの時にキョーコという御守りが、クオンの闇から救ってくれなければ、リックに怒鳴られる事になっていただろう。

 

「大切な御守りが居てくれるお陰です。俺1人では…此処に居られたかわかりません」
「まだまだ若造だな。人は1人でなど生きられん生き物だ。罠に掛かった腕を食いちぎってでも逃げ延びて生きる強さを持つのが野生の動物だ。人間は『死んでしまう!』と思っただけでショック死する事がある。心が先に死ぬと思ってしまうだけで心臓は鼓動を止める。野生動物の方が生きる執着は強い。それだけ人間の心は繊細だと言う事だ。過去に長い間…心を縛られ苦しむのも人間だからだ」

 

 

≪つづく≫

 

 

甘味なしのページです~

 

 

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なんとなくキョコに似合いそうだと思ったんですけど、どうかな?

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