2人のコンビネーション…音夜と唯香
     ライバルからそして…③

 

 

* * *

「はぁ~~」
 キョーコは今回のドラマの初版の台本を読んで、深い溜息と共に閉じていた。まだ台本としても未完成であり途中だったが、前回と違うと聞いていたのがよく分かった。
「前のコンビネーションと…全然、違うわ…」
 前回は刑事のコンビものとして、事件をメインに追い掛けていたが、今回はニューヨークからのくせ者の刑事も加わり続きでありながら違っていた。
「は~~。なんかハードな緊張感のあるセリフの遣り取りが最初の方からあるし、『大人な唯香』を私なんかに…ジョンとの遣り取りのシックな感じなんかやれるのかしら? それに蓮さんとの…キ、キスシーン…とか、ほ、他にも///」

 

 キョーコは台本を打ち合わせ前に渡され、少しの時間でもと目を通していて圧倒されてしまった。
 シックでそこに事件も絡んでくる。音夜と唯香は仕事中はいつものコンビで、深く愛し合う恋人達。流れる空気が違った。

 

「おーい、キョーコちゃん。こっち、こっち」
 台本での溜息に埋もれているところに、螺旋階段から自分を呼ぶ社の声が聞こえた。何とか打ち合わせ前に顔を見る事が出来て、キョーコも笑みを浮かべた。
 今日はSP版の内容などの監督達と、ストーリーに取り入れたい2人の気持ちのヒントなどを打ち合わせたいと言う事だった。蓮とキョーコからの意見も欲しいと言う事だが、相変わらず蓮の方が忙しくて、キョーコも別の仕事からの合流となった。
「社さん! あ…蓮さん、こんにちは」
「こんにちは、キョーコ。交際もオープンにしたんだから、呼び捨てでもいいのに…」
「そうはいきません! 年上だし、大先輩だし…」

 

 本音は呼んでみたい気持ちもあるが、キョーコにとっては偉大な尊敬する役者でもある。恋人になれただけでもまだ夢心地の状態なのだ。
「はいはい。じゃれていたいのは分かるけど、今日はリクエストの多かったドラマを、放映終了してからとはいえ誰かさんが交際宣言までして、続きが見たいということになった続編だからね」
「そうですね」
 ニマニマと笑みを見せる社に、蓮は静かにキョーコを見た。
「…はい///」
 お互いの忙しい仕事故に、まともに顔を合わせるのも久し振りで、キョーコはほんのり頬を染め。少し照れくさくて視線を合わせがたくて、蓮もにこやかな笑みで通り過ぎる女性も見惚れていた。
「特にコイツは蕩けてるから、キョーコちゃんが手綱を引いてくれよ」
「私なんかが蓮さんの手綱なんて…」
「いやいや、それぐらいが調度いいからキョーコちゃん。今回のSP決まった時といい、キョーコちゃんとの共演だとドラマ収録中はいつものコイツだけど、休憩になると周りの人間は堪ったもんじゃないよ。当てられちゃってさ♪」
 尚も頬を染めて慌てるキョーコに社はニマニマと笑い、蓮はそれを否定もせずに共演が楽しみで仕方がない笑顔を浮かべた。
「俺もキョーコとの共演は、久し振りで楽しみだよ。特にこのドラマはね」
 ニコニコとした蓮の笑みを見る社は、チラチラとキョーコと視線を往復したあと、その視線から逃げるように呟いた。
「俺、席を外した方がいいか?打ち合わせには30分もないけど?」
 社が本気半分で訊いてみれば、蓮がニッコリと社を見た。
「………訊いた俺がバカだった。コーヒーでも買ってくるよ。俺の分だけね」
 逃げるように社が2人を後にすると、蓮はキョーコの手を引いて腕の中に抱き締めた。
「会いたかった…」
「私も…です」
 頬を染めるキョーコを壁際にして、蓮は出来るだけそっと唇を重ねるが、気が付けばキョーコ不足を補うように深く重ねていた。
「少しだけキョーコ不足を補充出来たかな」
「わ、わ、私は酸欠になぁ~~///」
「今度は人工呼吸しようか?」
 真っ赤になったキョーコは両腕で大きく×印を作って見せた。

 

* * *

 

 無遅刻キングの異名を取る蓮だけあって、キョーコも顔合わせから遅れる事の無いように、腕時計を見ながら部屋をノックした。

 

「メンバーは今回の事件のゲストのジョン役ぐらいで、あまり変わってないらしいから、そこは程々楽だと思うけど。あとは今回のゲストから派生する事件のアクションシーンかな?」
 コンコン…と社がノックして、「失礼します」とメインの蓮とキョーコを先に入れ、最後に社が付いて入った。
 続編のドラマなだけに見知った顔が殆どで、お久しぶりです…と挨拶を交わした。撮影はまだ先と言う事で、今回はジョン役の俳優は来日していなかった。

 

「前の時も順調だったが、ドラマが終わってからもドラマを作って話題に事欠かなくしてくれたね、敦賀君?」
「ダメでしたでしょうか?」
 蓮が飄々と答えて余裕の笑みを浮かべると、監督達もニンマリと笑みを浮かべた。
「現実もドラマのように2人が幸せなのはいいさ。ただ…君がそういう男だとは思ってなかったけどね。それだけ彼女だけしか目に入ってないということか?」
 蓮は笑みでだけ答えるが、主役2人を見て脚本家との打ち合わせがメインだ。連続ドラマのスペシャルと言う事も考え、もう少し2人の未来を考えた内容も入れたストーリーを織り込んではどうかと脚本家がアイディアを出してきた。前の最終回で、2人が結ばれながらも見た未来だ。
 キャリアとしての階段を確実に上っていくだろう音夜と、男社会の刑事という仕事の中で、勘も良く優秀ではあるが、ノンキャリの唯香ではいつまでも同じ場所にはいられない未来が見える縦社会は、ずっと共に歩きたくとも難しい階段だ。

 

「今回は事件を軸とするよりも、君達コンビがどうなっていくか、その先も含めたコンビの恋人がどうなっていくか、そこも2時間スペシャルの形で作り上げていくからな。だが、リアルとドラマを混同しないようにな」
 声ではピシッと強く言いながら、監督はニンマリと笑って見せた
「リアルとドラマの混同?」
 キョーコが天然丸出しで口にすると、蓮はクスッと笑って耳元に「どちらも恋人だけどってこと」と付け足した。
「恋人としていちゃつきすぎないように頼むぞ」
「そ、そんな事は、しません!」
 時代が違う「破廉恥」と叫ぶキョーコが頬を染めるが、蓮はニヤッと笑って何か考えていそうだ。
「…蓮さん…変な事を考えてないでしょうね?」
「変な事って?」
「その似非紳士の笑顔…前にも演技と言いながら///」
 キョーコが前歴もあるからと、先輩ではない蓮を上目遣いで睨んだ。
「キョーコ。その視線は睨んでないから。煽ってるから」
 蓮は似非紳士の笑みを余裕で浮かべ、キョーコの頭を軽く引き寄せて髪にキスした。

 

 この場には監督他、ドラマでのメインキャスト、メインのスタッフしか居ないとはいえ、『抱かれたい男』の素なのか、独占欲からの当たり前の動作なのか、恋人にメロメロなのは確かだと周りは呆れていた。
 だが久し振りに会ったキョーコに色香が香り立つ…幸せそうな2人を予想はしていたが監督以外の関係者がキョーコを囲んでからかった。

 

「まあそこに、ライバルか?と言えるインターポールからのジョンという存在が君達を邪魔して掻き回そうとするからね。ライバルがいた方が燃えるんじゃないかい?」
「ライバルの、馬の骨をへし折るように頑張ります」
「がははは…。本音が入ってるね!」と監督は楽しそうだ。
「実際にジョン役のポールは少し知ってるんですよ。ライバルになられると面倒ですからね」
「ほぅ…」
 蓮の言葉に監督は興味深そうな声を出した。
 2人だけで話し出すと周りも遠巻きにして話し掛けないでいた。

 

「役の上でのジョンも、彼は唯香のようなタイプは好みではないはずですが、変わるかも知れませんので気を付けます」
「日々キレイになっていく京子さんを守ればいいのではないか?」
 蓮にはキョーコしか目に入っていないセリフだが、監督としてはオイオイと言いたいところで…。
「ドラマの上でも…色々気を付けて欲しい処ですが…」
 蓮の言葉に監督が、余計な事を考え出しそうになって…しまったと蓮は思うが、結局はキョーコの行動や表情でポールが振り向かなければいいのだが…。

「ただ…話の余興だけでキョーコに変な役処は止めて欲しいです」
 先程までのにやけた顔から、蓮は真剣な顔で言った。
「どういう意味だ?」
「彼女は役者としての魅力も一役ごとに増しています。でも、役者でない時の彼女は、無垢と言える程に純粋なただの女性です。演じている時は別人にもなりますが、素直で優しく、心の奥の傷を癒やしながら、上を見て成長しようとする普通の女性です」
「ふむ…前向きで素晴らしい女性じゃないか。心の傷もその前向きさで直せればいい。君と添い遂げるなら、君が包んであげればいいのじゃないのかね?」
 恋人である蓮になら出来る事だと監督は口にした。
「そうですね…。そうしてあげたいのですが、その傷が心の奥深くの幼い心にあったら、無垢な心に残る傷であれば、時間が経つほどに簡単に消せなくなっていたら、癒やせない傷ではないかと心配なところもあるんです。幼く純粋すぎた心に出来たからこそ…癒やすのも難しい気がして…」
 蓮の目が切なそうに伏せられれば、監督も蓮の杞憂に終わるとは言い切れなかった。
「それは…難しそうだが」
「傷付いた時が幼くて純粋すぎて、『癒やせる』と簡単に言える自信はないです。これは彼女をいくら愛しても、抱き締めても心は見えません。それに彼女の我慢強さは、寂しくとも笑ってみせる切なさも、勝てないと思わせる強さにはただ溜息が出ることもしばしばです。そして俺自身は、彼女とは違う傷付けられて闇に引き込まれたところを、彼女に救われました」

 

「君がかね?」と監督は本気で驚いた。
 敦賀蓮は若くとも、その役者として、また男としても半端な見てくれだけの男ではないというのが周知の事実で、女性に助けられるほどの弱さを内に持っているとは思えなかったからだ。
「はい。救われたから癒やしたいと思っている訳ではありません。彼女とこれからを共に生きていきたいから、彼女の心の中から傷という重荷を減らしてあげたい。これから彼女と暮らしていく中で、心から笑い合える人生を暮らしていけるように…無垢な彼女を取り戻して欲しいと…」
 蓮は、キョーコが引き続きの仲間達に何かを言われ、頬を染めている姿を眩しそうな目で見つめた。

 

 

 

≪つづく≫

 

 

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