スキビ&CH   

       【プライベート・アイ】 11

 

 

 

「では、遥を交えての打ち合わせのシーンの役者さん、集まってください」
 緒方監督の声に十名ほどの役者が集まってセットのイスに座った。名前も付かないエキストラも多いための呼び出し方だった。
 デパートの中の従業員用の小さな会議室。大きめのテーブルを4つ繋げたシンプルな作りに、白いマジックボードに書かれた文字。
 遥の前にはデザインの説明用のペーパーが束ねられていた。
「では、リハいきます! スタート!」

 


* * * * *

 


 監督の合図と共に、デパートの広報が展示して欲しい商品を並べて遥の確認をとる。
 遥は写真で訊いていた商品と同じか照らし併せて間違いがないかチェックすると、ディスプレーのイメージ図をその場にいる者達に配った。
 そしてホワイトボードにも分かりやすいように大きく描くと、すでに発注済みの小道具も含めて展示する商品との釣り合いがとれるように、秋から冬の装いへと変わりゆくディスプレーの変化を説明した。
 そしてその場に持ってこられた服にそっと触って、その肌触りを確かめながら冬の寒さから守ってくれる優しさを感じ取った。
『素敵なコートですね』
『遥さんには素敵に飾ってもらいたいわ』
『勿論です。とても優しい感じで冬から守ってくれそう…』
 そんなやり取りでスムーズに打ち合わせが進んでいると、ノックと共に大樹が現れざわめきが起こった。
 今までディスプレーの打ち合わせに来たことの無かった大樹が現れたことで女性陣が浮き足だった感じになった。
 口を出すつもりはないが、興味を持った。
 ではなぜ興味を持ったかと言えば、遥のディスプレーが気に入ったからだというのだから、あからさまに嫉妬の視線を送る女性もいた。
『この資料も素晴らしいですね。畑違いの俺にも分かりやすい』
 デパート側の広報スタッフにも分かりやすい資料に、大樹は仕事を通しての素晴らしい仲間として遥を認めている言葉を口にした。ただ女性だからと甘やかさず、仕事の出来を誉めていた。
 嬉しさに頬を染める遥の可愛いらしい笑顔に、見ほれる男性メンバー達。
 そんな遥に対して嫉妬の視線を送る女性も、自らの心の狭さに恥じて嫉妬の視線を逸らした。
 話の流れの中で、いつか組んで仕事をする話も出た。
 それも大樹の方から積極的に。
 遥は大樹の誇るブランドが大きなものだと知っている。だがこのデパートとの個人契約を考えれば、嬉しい申し出ではあっても荷が重い。かといって断ることも出来ずに、「いつか…」と断りを入れながらも受けることになってしまった。
 そして打ち合わせが予定よりも早く終わると、大樹は自分の仕事場の見学を遥に申し出た。
『今度俺が遥さんの仕事場を見に行くんですからおあいこですよ。それに仕事で組むならお互いの仕事を知っているのもいいと思いませんか?』
 少し強引ながらも、大樹は遥との繋がりを強く持とうとしていた。
 遥の仕事振り。努力を惜しまない姿でありながら、それ以外は控えめな様子。はにかむように見せた花が綻ぶような笑み……。
 大樹には今まで出会った女性とは違う、新鮮な可愛らしさと強さを備えた女性に見えた。 

 


* * * * *

 


「カット!」
 カメラが止まると撮影中という緊張感が消えた。
「遥の表情がよかったですよ、京子さん。大樹も押さえ気味に、でも遥と絆を繋ぎたい気持ちがよく感じられました。光君も素朴な感じがよく出ていましたよ。いい感じですのでひと休憩をしたら本番に入ります!」

 

 緒方監督はキョーコや蓮の表情がいいことに、この調子で収録が進めばいい作品になると、にこにことした表情で嬉しそうだ。
 だが暫くはスタジオ撮影が続くが、ストーカーらしき男の事もあり気を抜いてばかりもいられない。
 監督業以外に気を使うのは、それもナイフを振り回すような相手では、命に関わりはしないかと心配は尽きなかった。
 だからといってスタジオだけでの撮影では限界がある。だから撮影の順番を集中的にまとめるスケジュールにしたのだ。
 休憩後はリハよりも表情がよくなった二人を中心に、一発OKだった。

 次の室内撮影は大城と大樹の仕事場での親しくなる会話のシーン。大樹に仕事場に誘われて、遥はデザイナーでもある大樹の仕事場を見ることは、それも勉強の一つだと嬉しいと思いながらも緊張した。しかし二人きりではなく大城がいたことに少しほっとした。

 

 

* * * * *

 


『大樹…って珍しいお名前ですね。大きな樹は安らぎをくれたりして素敵な名前だと思います』
『そう? この名前は、大きな樹のごとく大きな人になれ!って、両親がつけてくれたんだけど、あまりない名前だからね……』
『大きな人……』

 

 遥は大樹の体格を見つめて、その身長は大きな肩幅、何より抜きんでて目立つのはそのモデルさえこなす容貌だ。
『体格だけなら十分大きくなってるけどね、人間の器も大きくなければ本当の意味で大きな人とは言えないね』
『そんなことないと思います。大樹さんなら十分素敵で大きな人だと思います』
『遥さんにそう言ってもらえるなら十分だよ』

 

 誰もがとろけそうな笑みで答える大樹に、遥は頬を染めた。

 

『遥さんの名前は?』
『私は、遥かなたにまで翼を持って強く生きろ…と。凄く大きな理想で、訊いた時に驚きました』
『今の君には翼を広げて飛んでいきたい夢はあるの?』

 

 大樹は優しく訊いてみた。

 

『あります。でも直ぐに捕まえられるような夢ではないです。だから今はそのための準備の時間なんです。勉強して飛び立つための準備期間』
『遥さんの夢は叶えるために必要なことが多いんだね。それだけに飛ぶ準備が必要なんだ』

 

 遥は頷きながら答えた。

 

『今、このデパートのディスプレーをさせてもらえるようになったのは、私にはとても幸運な勉強をさせてもらっていると思っています。だからもっと勉強して、経験を積むことが私の今の夢へと続くと思っているんです』
『君にはもっと高みの夢があって、この店のディスプレーもステップの一つなんだね』
『……そうですね。この店のウィンドーをディスプレーする仕事を任されることは、幸運ではあるんですが、まだ本当の夢ではないんです。大樹さんもデザイナーとして、モデルさんとして、より大きなステージに立つことが夢じゃないですか?』
『デザイナーとしてなら、より多くの人に好きだと言ってもらえる服を作り出していきたいね』
『モデルとしては大きなステージに立ちたいとは思わないんですか?』
『他のモデル仲間に言ったら怒られそうだけど、俺は社長の命令でモデルを始めたから執着がないんだ。デザイナーとしての勉強のつもりでモデルをしているからね』
『大樹さんがですか? 二足の草鞋としては珍しいと思っていましたが、モデルの方に執着がないなんて勿体無いです!』
『君はディスプレーと、ジャンルは違っても見せる側だからそう思うのかもしれないね。でも俺はデザイナーとしてスタートをしたから、デザイナーとしての夢を叶えたい』
『私がもっと上を目指すようにですか?』
『そうだね。俺がデザイナーとしてスタートしたのは、コンプレックスが元だったんだ』
『どこにコンプレックスがあったんですか?』

 

 遥が驚いて声を上げた。

 

『俺のこの身長や体格が、学生時代にはコンプレックスだったんだ。年齢よりも早い成長は服がなくて親に世話をかけたから、自分で作ることを始めた。男が洋裁をするとなると、気持ち悪がられたりしてね…、友人も離れていく者もいた』
『そんな……』
『俺も作り出すことが楽しくなって趣味としてデザインから初めてみたりもしたんだ。それを見る友人には、男が服を作ることは奇異の目に映ったんだろうね。プロのデザイナーとかには趣味の違う人もいるから、そんなことも思われたのかもしれない』
『そんな……、趣味が違うからって、お互いの違う面も認められなかったら寂しいです』
『初めは寂しいと思った。でもそれだけで離れていく人はそれだけで俺を本当に見てくれていないと思ったから諦めたよ。俺は俺として受け入れて欲しいからね』
『……大樹さんは強いですね』
『そんなことはないよ。俺は趣味として続けていくうちに、自分に向いていると思って高校を卒業してから専門の学校に行き、そこの展示会でこのデパートの社長に認められて今があるんだ。何がきっかけで生きたい道が見つかるかわからない。だけど今の俺は充実している。俺を認めてくれた社長のお陰だね』
『……でも、そこまで認めてもらえる今を掴んだのは、大樹さんの努力があってのことです』
『遥さんだって、高校の時からアルバイトで勉強して、指名がかかるほどに努力しているじゃないか。頑張る君に、神様は努力のご褒美をくれるよ。これからだって、君が頑張れば夢へのステップを上っていける』
『……頑張ります…』
『おいおい、俺のことを忘れてないか?』

 

 大城が二人の会話に入ってきた。

 

『ごめんなさい。そんなつもりでは……』
『いいよ、いいよ。珍しくこいつが仕事がらみとはいえ女性に興味を持ったんだ。俺としてはどうなるか楽しみだからね』
『大城!』
『あ…あの……』

 

 狼狽える大樹と焦る遥に、大城は楽しそうにニヤニヤとした顔だ。
『遥ちゃん、こいつなら大丈夫だからね。両手に女で手が早そうに見えるけど、俺の知ってる範囲では女性と付き合う姿見たことないし、口説くのもない。でも男が好きでもないからね』
『……大城……』

 

 大樹が大城を睨んで怒気をはらんだ声を出した。

 

『あと、こいつはバカが付くぐらい真面目なとこがいいところであり、手に負えないところだからよろしくね』

 

 大城がウィンクして遥に言うと、大樹は言葉に詰まって遥に視線をやった。
 どう見ても女性にモテて自分になど目を留めると思えない素敵な異性が、自分に向ける視線がどこか恥ずかしげで困って見えるのは遥の気のせいではなかった。

 

『大城の言うことは気にしないでいいからね。でも、俺のことを少しだけ気にしてくれると嬉しいけど……』

 

 はにかむような少年のような笑みに、遥は頬を染めた。

 

 

 

 

≪つづく≫

 

12話は、本誌20日発売に合わせて文句いっぱいになると思われますので(苦笑)、

21日になる予定です。

<(_ _)>

 

 

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