魔人様<リク罠>より~酔った勢いで関係を持った蓮とキョーコ。それ以来蓮からはお酒を理由に誘いながら…さて二人は?
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会見まで、キョーコは蓮から逃げてばかりいた。蓮からの電話も出ないまま、呼び出し音が胸を締め付けて電源まで落としてしまった。
甘えたい女~もうひとつのお祝い 13
それでも会見の控え室にキョーコは現れ、テンがメイクの仕上げをするという名目でキョーコの処に来た。
「キョーコちゃん、この会見まで蓮ちゃんから逃げていたんですって?」
「ミューズ、どうして此処に? あの…いえ逃げていた訳では…」
いつもなら憧れのミューズとじゃれるキョーコが、テンと目を合わせるのも気まずいと、俯き加減でテンが溜息を吐いた。
「……それで、色々考えすぎて寝不足なのかしら?」
テンに優しく声を掛けられても、今のキョーコには声が出ない。
「目の下のクマに、お肌も少し荒れてるわね。少しだけキレイにしましょうね」
ミューズの言葉が、自分を腫れ物を扱うように優しい。詳しくは知らなくとも、社長や敦賀さんから聞いているのだろう。
でも…敦賀さんが私を望んでいても、そんなのはひとときの躰だけじゃないかと思ってみたり、敦賀さんの心が分からなくて、心が空回りしてばかりでゆっくり眠るなんてできやしない。
寂しくて…でも本当の事を知るのが怖くて…不安で……。
さっき社さんにも、私だけって言われたけど、だったらどうして敦賀さんは何も言ってくれないの?
「キョーコちゃん」
テンの優しく強い声がキョーコに響いた。鏡に向かって自分の直ぐ隣で、鏡を通して自分を見ていた。
「蓮ちゃんの言葉を、聞き逃さないであげてね。蓮ちゃんの気持ちとキョーコちゃんの気持ちと、逃げないで向き合ってね。不安があるなら、ちゃんと蓮ちゃんに言葉にして伝えてね。お願い…」
「……どうして…どうしてミューズが泣きそうな顔をしているんですか?」
鏡を通してキョーコを見つめるテンの目は、キョーコと同じ顔をしていた。涙はないのに…泣いているような目でキョーを見ていた。
「キョーコちゃんの気持ちと同じなだけよ。…蓮ちゃんを真っ直ぐ見つめてね。それに蓮ちゃんって、思ったより不器用な処もあるのよ。逃げないでね…。2人が好きだから、幸せになって欲しいの」
テンがそっとキョーコを抱き締めながら言った。
「敦賀さんが…不器用?」
蓮には似つかわしくない言葉に、キョーコは驚きながら鏡の中のテンを見た。
「一番大切な事には、人って意外と不器用なの。特に、蓮ちゃんみたいに何でも出来るように見える人ほど、自分の事は凄く不器用なの。だから覚えておいて…」
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そして会見場には、記者もカメラマン、TV局から新聞など、立錐の余地が無い程に多く集まっていた。
長いテーブルを前に2人のイスは置かれ、少し離して設置されていた。それでも1メートルも離れていない。
キョーコが席に案内されると、既に蓮は威風堂々と構えて座っていた。だが、キョーコはイスに腰掛けても、蓮の方を見れないでいた。姿勢もいいのに俯き加減の姿に、蓮の視線は時折心配そうにキョーコを見ても、キョーコには蓮を見る勇気がなかった。
それが今の2人の心の距離を顕してもいた。
【それではこれよりLME芸能、会見担当、私、山村が司会をさせて頂きます。LMEプロダクション所属、敦賀蓮、京子の記者会見を…えっ、ん?】
山村が司会としての挨拶を報道向けにしようとしたところで、横から紙を差し出され、山村が戸惑いの声を出した。その視線に紙を差し出した人物が、こちらが本当だというように声ではなく指で指示を出していた。
【申し訳ありません。LME芸能所属、敦賀蓮と京子の交際につきましての記者会見をさせて頂きます】
司会の山村の言葉に、キョーコが驚いて顔を上げた。この記者会見は、二人に関して過熱する事への記者会見であった筈だ。それが、交際についてと切り替わっている。
直ぐ横のイスに腰掛けるもう1人の男は、顔色ひとつ変えずに座っているなら、彼は知っていた。
何故? どうして?
キョーコは蓮との交際ではなく、いつまでも大切にされていた後輩が勘違いをして押しかけていたのだと、自分のせいで騒がせてしまったのだと謝る形をとるつもりだった。
そう言って、山村にも伝えていた。
押しかけていたのだから場所はいつも蓮の家で、二十歳を過ぎたからとお酒を呑んだ。蓮が自分の家に引き入れたと言われたなら、時には食事を作りにも行っていた。蓮の家にも何度か行っていたのだから、蓮には初めからそういう意思があった訳ではないとも言える。それに元々蓮にはそういう噂もない人物だ。
『押しかけてきた後輩を、お酒も入ったところを誘惑した』
そんな事には…蓮の普段の行動を考えれば、蓮ほどにモテる男が取る行動ではないと、記者達も思う筈だったのに……
【それでは、先に敦賀より…コメントを】
またキョーコは驚いて司会の山村を見た。
話した手順と違う! 自分からの筈だった!
「では、私…敦賀蓮は京子さんと正式にお付き合いをしておりました。ただ…スタートを間違えたことで、京子さんを不安にしたままのお付き合いになってしまったと、後悔しています」
「なっ…何を…?」
キョーコは蓮だけを見つめて、顔色が変わっていたであろう。
この会見が自分だけを置いて走り出している事に気が付いた。
【間違えたスタートとは?】
司会の山村が冷静に蓮に問い掛ける形で、蓮が話しやすくした。
「彼女が二十歳になり、お酒を飲みながらのお祝いのつもりでした。ですが、珍しく酔いつぶれた俺が…京子さんと…ことに及んでしまったという、男としては情けないですが…それがスタートです」
≪つづく≫
やっと動き出しました。
蓮様ぶっちゃけましたが…如何に?(^▽^;)