171続き妄想…?  2

 そう言い放つこの男を、私は何でもないかのように見返した。
 本当なら先輩を見る目じゃない……。
 でも今は、強気なナツにでも成らない限り……私の中で、鍵が一つ……また一つと外されていってしまう……。


 ……ダメよ……。
 惑わされて、引きずられて……私の中が崩れていく……。
 崩れたら……、もう……立ち上がれない……。
 優しいこの人に縋ったら、もう離れる事なんて出来なくなるに違いない……。


「いいです……。何処かにお部屋…ありますか?」
「控えの部屋がある。そこならゆっくり話せるし、お邪魔虫も入れない……」


 オイ! その場合、お前が狼になる事もあるんだろうが!!


 横で蓮を見ながら、社が心の中で叫んでいた。
 蓮の気持ちはよく分かる。 
 何より…蓮の気持ちに一番最初に気付き、誰よりも二人が上手くいけばいいと思っている人間だ。
 しかし……今の状況は、キョーコが理由は分からないながらも蓮に怯え、蓮はそれでもキョーコに強引に近付こうとしているように見える。
 下手に失敗すれば……それこそ二人の今までの関係もおじゃんだ……。
 それなのに何処か蓮は落ち着いても見える……。


 蓮の奴……何か確信があるのか?


「貴島君……。少し彼女を借りるよ……」
「すみません……。また後で……」


 二人が貴島に向かって挨拶をすれば、蓮を前にキョーコが付いていった。
 蓮だけでも目立つというのに、分からない人間には何処の美女を連れて……、そんな視線が追いかけた。


 そして部屋に入る時、キョーコに先を勧め、蓮は鍵を掛けた。


「さあ……、最近の最上さんが……何故変だったのか教えてくれない? 『役』が憑いている時は普通なのに、何故か……『素』の君に、逢えないのは何故…?」


 そう言われてキョーコは、『素』に戻りそうになった。


 やっぱり……やっぱりそうだ……。
 私の小さな演技なんて、この男(ヒト)にはお見通しだ……。


「『美緒』でいる時、『セツカ』でいる時……君は俺との距離を普通に取っている。でも……『役』から下りた途端に、逃げるように距離を置いてしまう……。俺は君に……、嫌われるような事でもしたのか? それとも……逆?」


 『逆』……。そう言われた瞬間に、鼓動が跳ねた。
 只でさえ心臓の音が大きいのに……、この男(ヒト)は私の心臓を壊す気?


 それに鍵が……、……アイテシマウ……。
 デモ……ダメ……。
 ニゲナケレバ……。
 マダ……アイテ……イナイ……。
 ……ヒラキキッテ……イナイ…………。


 ギイィ…ーーーーーー


「ダメーーーー!」


 キョーコは蓋が開き掛けた音に、両耳を塞いでしゃがみ込み……現実から逃げようとした。


「…最上さん…!? どうしたの? 何が……」
「近寄らないで!! ……近寄らないでぇ……」


 キョーコの声に、蓮は泣いているのが分かった。
 それなら尚更キョーコの動揺が気になった。


 最上さん? 君は何を怖がっている?
 まだ俺には君を抱き締める腕を持たない男だ……。
 まだ君を抱き締めるには……汚れている……。
 でも俺は、神に背いても……君が欲しいと思った時がある……。
 君がアイツを見る目が、アイツが君を見る目が……俺はその間に入り込んで、互いの視線を遮りたいと思った。


 蓮はしゃがみ込むキョーコの両肩をそっと掴むと、引き寄せて抱き締めた。


「ダメ! ……ダメなの、敦賀……さん!! ダメー!!!」


             《つづく》


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